国の2021年度の税収は67兆円余りで2年続けて過去最高を更新した。当初見込みを大幅に超え、前年度比で10%も上振れた。消費、所得、法人の「基幹3税」がそろって伸びた。新型コロナウイルスの影響は残るものの、急激に進む円安も企業収益の増加を後押しした。

企業や個人の好業績がもたらす法人税収や所得税収の増加は歓迎したい。だが消費税収が増える事態はどうだろう。

富裕層からも、年金暮らしの高齢者からも、同じ税率で徴収する、逆進性を持つ税である。このタイミングでの税収増は、不景気時に重税を取り立てていることを意味するからだ。

消費税は既に最大の財源になっている。政府はその税収構造が、とりわけ低所得者層に大きな負担を強いている点を忘れてはならない。

数字が危機を示している。5月の消費者物価は変動の大きい生鮮食料品を除いて前年同月比21%増。一方で実質賃金は18%減に落ち込んだ。

今後も物価上昇の一方で賃金が目減りする可能性がある。経済に大打撃になるスタグフレーションが懸念されるのに、同じように徴税を続ければ国民生活は疲弊しよう。消費がさらに落ち込んでしまっては日本経済の回復などおぼつかない。政府が国民へもっときめ細かい目配りをすることが欠かせない。

参院選では、野党から消費税減税や、減税と現金給付を組み合わせた給付付き税額控除を求める声が強かった。

給付付き税額控除を導入済みの国は少なくなく、コロナ禍で付加価値税(消費税)を減税した国も目立つ。消費税減税を含め、政府も検討を重ねるべきではないか。

この30年余りの間、歴代政権は消費税を導入・増税する代わりに所得税や法人税の税率を引き下げてきた。広く薄く消費税を課す一方、富裕層や大企業の税負担を軽くし、消費や設備投資などを促して経済成長につなげる政策を続けてきた。

だが、この間の経済成長はあろうことか他の先進国に大きく後れを取ってしまった。所得格差は広がり、税優遇や補助金で企業に賃上げを促したものの効果は上がっていない。現状を踏まえれば法人税率を引き上げ、増収分を国民に再分配する手法も視野に入れるべきだ。

1989年に19兆円あった法人税収は21年度、13兆円にとどまる。75%だった所得税最高税率は今は45%に過ぎない。株売却などに伴う金融所得課税は原則20%で累進性はない。これが年間所得「1億円の壁」といわれる富裕層優遇と、格差拡大につながっているという批判は根強い。

岸田文雄首相は「新しい資本主義」を掲げ、富と所得の再分配をうたって政権の座に上り詰めたはずだ。ならば再分配を進めるため、自ら提唱した金融所得課税などの見直しをなぜ進めないのだろうか。

日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国中でも再分配が不十分と指摘される。高齢化がますます進み、社会保障費も増大する社会が目の前に迫る。

不安だらけの将来へ備えるには政府の取り組みは物足りないと言わざるを得ない。税制見直しなどに背を向けたまま、税収増を喜ぶことは許されない。