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24/02/11
24/02/11
この記事のライター
頼藤 太希
【知らないと大損】年金受給者が確定申告で得する8つの事例
確定申告の時期は、毎年2月16日から3月15日です。年金受給者の方は「自分には関係ない」と思っているかもしれませんが、そんなことはありません。年金受給者の方でも確定申告したほうが得な場合が多くあります。
年金生活者でも、年金額が一定水準を超えると、受給時に税金が引かれます。しかし、確定申告をすることで税金の還付が受けられれば、その分年金の手取りが増やせます。何より物価高ですから、生活を楽にするためにも、確定申告で税金が減らせるならぜひ手続きしましょう。
今回は、年金受給者が確定申告で得する8つの事例を紹介します。
年金受給者でも所得税・住民税の支払いがある
老後に受け取る年金は「雑所得」として扱われ、所得税や住民税の課税対象となります。
65歳未満で年金受給額が108万円超、65歳以上で年金受給額が158万円超の場合、年金から所得税があらかじめ源泉徴収されます。
また、4月1日時点で65歳以上の方で、前年所得に対して住民税が課税されている人は公的年金から住民税が源泉徴収されます。扶養親族のない方の場合、公的年金等収入が155万円超になると住民税が課税されます。
これまで、会社員として働いてきた人は、会社は年末調整を行い、税金を調整してくれていました。しかし、年金受給者には年末調整がありません。ですから、正しい税額を納めるためには確定申告をしたほうが良いのです。
ただ、確定申告は面倒なものですし、手間もかかります。人によっては、毎年確定申告するのは大きな負担でしょう。そこで、年金には「確定申告不要制度」が設けられています。
<確定申告不要制度>
政府広報オンラインより
確定申告不要制度が利用できるのは、
①公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下
②公的年金等にかかる雑所得以外の所得金額が20万円以下
の両方に当てはまる人です。
したがって、年金受給者の多くが確定申告不要制度の対象者に該当するはずです。
しかし、「だから確定申告しなくていい」というわけではありません。
毎年納めている税金額は、あくまで概算の金額ですので、納めすぎになっている場合があります。会社員のように年末調整があれば、正しい税額に調整されますが、年金受給者には年末調整がありません。したがって、確定申告することで税金が減らせる(所得税が還付され、翌年の住民税が安くなる)というわけです。
実際、年金額面から天引きされている税金や社会保険料は、それなりに高額です。東京都文京区・65歳・独身の方で、年金が年100万〜500万円までのときの手取り額の推移は次のようになります。なお、税金・社会保険料は他の所得や年齢・家族構成・お住まいによって変わりますので、あくまでも参考程度に見ていただければと思います。
<年金年100万〜500万円までの手取り額の推移>
東京都文京区・65歳・独身のモデルケース
※所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみで計算しています。
※税金・社会保険料は他の所得・年齢・家族構成・お住まいによって変わります。
(株)Money&You作成
年金額面が増えても、それに合わせて税金や社会保険料も増えます。多くの場合、年金から天引きされる金額は10〜15%程度。たとえ年金額面が10万円増えても、手取りの年金が10万円増えるわけではありません。つまり、少しでも手取りを増やすべく、所得税・住民税を節税するなら、確定申告が必要というわけです。
次の8つのケースに当てはまる年金受給者の方は、確定申告することでお得になりますので、ぜひ確定申告しましょう。
年金受給者が確定申告で得するケース1:年の途中まで働き、年末調整を受けずに辞めた場合
定年退職したあとに再雇用されたり、同年内に再就職したりして、12月末まで勤めた場合は、勤務先が年末調整をしてくれます。しかし、年の途中で退職すると、年末調整が受けられません。そのため、所得税を納めすぎになっているケースがほとんどです。確定申告をして税金を取り戻しましょう。
年金受給者が確定申告で得するケース2:「扶養親族等申告書」を提出し忘れた場合
年金受給者が配偶者控除や扶養控除を受けるには、毎年9月ごろに郵送で届く「扶養親族等申告書」の提出が必要です。扶養親族等申告書を提出し忘れると、配偶者控除や扶養控除の適用のないまま税金が計算されてしまいます。もしも提出をし忘れているならば、確定申告をすることで税金が取り戻せます。
年金受給者が確定申告で得するケース3:生命保険・地震保険に加入している場合
生命保険料を払っているならば生命保険料控除、地震保険料を払っているならば地震保険料控除が適用できます。
生命保険料控除には、契約時期が2012年以降の場合の「新制度」と2011年までの場合の「旧制度」があり、受けられる所得控除の種類と上限額が異なります。
【新制度(2012年1月1日以降の契約)】
・一般生命保険料控除
・介護医療保険料控除
・個人年金保険料控除
所得税:各4万円、合計12万円
住民税:各2万8000円、合計7万円
【旧制度(2011年12月31日までの契約)】
・一般生命保険料控除
・個人年金保険料控除
所得税:各5万円、合計10万円
住民税:各3万5000円、合計7万円
また地震保険料控除では所得税5万円、住民税2万5000円の所得控除が受けられます。
生命保険料控除も地震保険料控除も、毎年10月〜11月に届く控除証明書を添付して確定申告をすることで、税金を取り戻すことができます。
年金受給者が確定申告で得するケース4:多くの医療費がかかった場合
多くの医療費を支払った場合には、医療費控除が利用できます。医療費控除の計算式は、所得が200万円以上か未満かで変わります。
●医療費控除の計算式
【所得200万円以上】
(1年間の医療費の合計-保険金や公的給付などの補てん金額)-10万円
【所得200万円未満】
(1年間の医療費の合計-保険金や公的給付などの補てん金額)-所得の5%
医療費控除といえば「医療費が10万円を超えたら利用できる」というイメージの方が多いのですが、年金受給者の場合は「所得200万円未満」に該当するケースがほとんどです。したがって、医療費が「所得の5%」を超えた場合に医療費控除が利用できます。仮に所得が100万円ならば、医療費が5万円超のときに医療費控除が利用できる、というわけです。
医療費控除で認められる費用は「治療に必要な出費」と覚えておきましょう。医療費・薬代・入院のための部屋代や食事代、交通費(電車やバス。タクシーはやむを得ない場合のみ)、治療のための医薬品、治療のためのマッサージなどは医療費として認められます。しかし、病気の予防や健康維持、疲労回復が目的の出費は認められません。
なお、医療費控除は「生計を一にしている親族」の医療費も合算可能。家族分をまとめて申請しましょう。
また、セルフメディケーション税制は、所定の健康診断などを受けている方が特定の市販薬を購入し、年間費用が1万2000円を超えた場合に、その超過分(最大8万8000円)が控除対象になる医療費控除の特例制度です。
医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか片方しか使えませんので、よりお得な方を活用しましょう。また、医療品の購入時や健康診断などのときにもらった領収書は、税務署から提示や提出を求められる場合に備え、5年間保管しましょう。
年金受給者が確定申告で得するケース5:ふるさと納税をした場合
ふるさと納税は、自分が選んだ自治体に寄付をすることで「寄附金控除」というしくみを利用し、2000円を超える金額を所得税・住民税から控除できる制度です。そのうえ、多くの自治体からは寄付金の3割を上限とする返礼品ももらえます。また、寄付金の使い道(子育て、医療、農業など)を選ぶこともできます。
ただ、ふるさと納税で自己負担額が2000円になる金額には、上限額があります。ふるさと納税の上限額は、年収や家族構成により異なります。上限を超えて寄附をしても税金は安くならないので、上限額を調べて寄附しましょう。
●自己負担2000円となる寄付金上限額の目安
(株)Money&You作成
たとえば、年金額面250万円・65歳独身の方がふるさと納税する場合、自己負担2000円となる寄付金上限額は2万4000円で、その3割にあたる7200円相当の返礼品がもらえるとわかります。
自分のふるさと納税の上限額は、ふるさと納税を扱うウェブサイトでシミュレーションできます。自分のケースを確認した上で、ふるさと納税を行いましょう。
年金受給者が確定申告で得するケース6:災害や盗難にあった場合
雑損控除は、災害や盗難にあった場合に使える所得控除です。具体的には、次の(1)と(2)のうちいずれか多い方の金額を控除できます。
(1) 損害金額 + 災害等関連支出 – 保険金等 – 所得額×10%
(2) 災害関連支出 – 保険金等 – 5万円
※「損害金額」は損害を受けた時の直前の資産の時価を基にして計算
※「災害等関連支出」は住宅・家財などを除去するための支出や、盗難・横領により損害を受けた資産の原状回復費用
また、雑損控除で控除できる損害の原因は、次のいずれかに限られます。
(1) 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
(2) 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
(3) 害虫などの生物による異常な災害
(4) 盗難
(5) 横領
これらに該当する損害がある場合には、確定申告することで税金が安くできます。
なお最近、投資詐欺のニュースなどが報じられることもありますが、詐欺や恐喝の場合には、雑損控除は受けられません。
年金受給者が確定申告で得するケース7:住宅の購入やリフォームをした場合
住宅ローンを利用して自宅を購入している場合は住宅ローン控除が利用できます。住宅ローン控除は税額控除といって、税額から直接税金を差し引くことができます。2022年度(令和4年度)以降の入居の場合、年末時点の住宅ローン残高の0.7%を控除できます。
また、自己資金で自宅をバリアフリー・省エネ・耐震性能アップなどリフォームした場合、には「リフォーム促進税制」の対象になり、リフォーム費用の10%の控除を受けられます。対象となる工事には「耐震リフォーム」「バリアフリーリフォーム」「省エネリフォーム」「三世代同居リフォーム」などがあり、それぞれ控除対象限度額が異なります。
リフォーム促進税制は当初2023年末までの制度でしたが、2024年度税制改正大綱で2025年末までの工事・入居が対象になりました。これらのリフォームを活用したときには、ぜひ確定申告をしましょう。
年金受給者が確定申告で得するケース8:投資で損をした場合
損益通算とは、複数の口座の利益と損失を合算した金額で税金の計算を行うことです。
たとえば、2つの証券会社にそれぞれ特定口座(源泉徴収あり)の課税口座を持っている人が投資信託を買い、一方で20万円の利益、もう一方で30万円の損失を出したとします。このとき、確定申告を行い損益通算すれば、利益と損失が相殺されて利益が0円になるため、税金がかからなくなります。
また、損益通算をしてもなお引ききれない損失(上の例では、10万円)は、翌年以降3年以内に生まれた利益と相殺することができます。これを「繰越控除」といいます。
損益通算・損失の繰越控除は節税に役立つので、もし損失を抱えているなら忘れずに確定申告しておきましょう。
ただし、繰越控除で3年間にわたって損失を繰り越したい場合は、ほかに確定申告することがなくても確定申告が必要です。また、NISAやiDeCoでの利益や損失は損益通算や繰越控除の対象外です。
5年以内なら還付申告で税金が取り戻せる
年金受給者が確定申告で得する8つのケースを紹介してきました。これらのケースに該当するならば、ぜひ確定申告をして税金を取り戻しましょう。
今回の記事を読んで「確定申告を忘れていた」「控除が漏れていた」ということに気づいた方もいるかもしれません。しかし、その場合でも「還付申告」という手続きで税金を取り戻すことができます。還付申告は、対象となる年の翌年1月1日から5年間できます。
確定申告というと難しそうですが、今やスマホやパソコンから手軽にできる時代です。国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」から、案内にしたがって金額を入力するだけで税額が自動的に計算されます。
マイナンバーカードがあれば「マイナポータル」から確定申告に必要な「公的年金等の源泉徴収票」などの情報が連携できます。
もちろん、対面で相談しながら確定申告したい場合は、管轄の税務署や確定申告会場でも行えます。確定申告をして納めすぎている税金を確実に取り戻しましょう。
今回の内容は動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
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頼藤 太希マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、など書籍90冊、累計150万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。twitter→@yorifujitaiki