雨量の少ない地域の国々には「水」という資源はかけがえのないものです。
日本は、世界有数の水という資源に恵まれており、治水技術・文化もとてもレベルが高い国の一つです。
それでも、渇水期には各地域で水不足がおきています。
また、地球的規模の環境変化による熱波と、人類が生きていくための食糧生産により水不足が深刻になりつつあります。
現在はまだ高価な材料を使用しなければならないようですが、今後の技術進化に期待したいと思います。
(N)2022.5.20
ナゾロジー
2022.05.02 MONDAY
水の確保が難しい地域では、海水を飲料水に変える「淡水化装置」が重宝されます。
特に、どこでも利用できる携帯型の淡水化装置は、離島や船で大いに役立つでしょう。
しかし、従来の装置は何度もフィルターを交換しなければならず、不便でした。
そこでアメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)の電子工学者ジョンヨン・ハン氏ら研究チームは、フィルターいらずの携帯型淡水化装置を開発しました。
ボタン1つで簡単に海水から飲み水を作り出せるのです。
研究の詳細は、2022年4月14日付の科学誌『Environmental Science and Technology』に掲載されています。
目次
フィルターありの携帯型淡水化装置はエネルギー効率が悪い
市販されている淡水化装置の多くは、交換フィルターを用いて海水に含まれる粒子(塩分や細菌、ウイルス)を取り除きます。
しかし、海水がフィルターを通過するためには、高圧ポンプで強く押し出してもらわなければいけません。
そのため携帯用に小型化するのは難しいのです。
もちろん、いくつかの装置は既に小型化されていますが、ほとんどの場合、エネルギー効率が犠牲になっています。
たくさんのエネルギーを使って少量の飲料水しか得られないのです。
またフィルターを何度も交換しなければならず、遠隔地で利用できても、面倒で煩わしい部分が多かったようです。
では、これらの課題点を一気に解決することはできるでしょうか?
ハン氏ら研究チームは、フィルターに頼らない新しい携帯型淡水化装置を開発することにしました。
ボタン1つで動作する「フィルターなしの淡水化装置」
新しく開発された携帯型淡水化装置には、ハン氏らが10年以上前に開発した技術が利用されています。
その技術は、ICP(ion concentration polarization)と呼ばれており、フィルターを利用せずに、海水内の粒子を取り除くことが可能です。
ICPプロセスでは、水路(水の流れ)の上下に配置された膜に電圧をかけます。
膜がプラスまたはマイナスに帯電した粒子(塩分子、細菌、ウイルス)を引きよせて取り除き、第2の水路から排出するのです。
これにより、消費電力の小さい低圧ポンプでも、浮遊物質と溶解性物質の両方を除去できます。
そしてチームは、ICPと既存の技術を組み合わせて、エネルギー使用量をさらに抑えた携帯用淡水化装置の開発に成功。
装置は10kg未満であり、1時間あたり0.3リットルの飲料水を生成できます。
しかも1リットル当たりの消費電力はわずか20Wでした。
これは1時間保温の炊飯器と同じくらいの消費電力です。
実際に海岸で行われたテストでは、装置とつながったチューブを海水に投入してから30分で、コップ1杯ほどの飲料水が出てきました。
淡水化された飲料水は、世界保健機関(WHO)の水質ガイドラインをクリアしています。
世界中の多くの人が、この装置の実用化から益を得るはずです。
とはいえ現段階では、この装置をつくるために高価な材料を使用しなければいけません。
チームは「低コストの材料を使った同様のシステムが登場したらいいですね」と述べており、さらなる進展を見据えています。
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