【備後とことこ】
2022.10.05
全国のアートファンが集まる「瀬戸内国際芸術祭」をあえて挙げるまでもなく、近年、現代アートと瀬戸内海地域の相性の良さは広く知られるようになりました。
瀬戸内海を囲む広島・岡山・香川・愛媛県をひとつの文化圏と捉えるなら、そのエリアの橋渡しとなっているのが、いまや現代アートといえるかもしれません。
そうした機運を盛り上げるアートフェスのひとつが「鞆の浦 de ART」です。
2022年9月25日(会期初日)に開かれた見学ツアーのレポートを通して、今回の見どころを紹介します。
記載されている内容は、2022年10月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
「鞆の浦 de ART」は、どんなアートイベント?
「鞆の浦 de ART」は、鞆の浦(福山市鞆町)の町一円が現代アートの舞台となるアートフェスです。
地元有志による実行委員会(鞆の浦 de ART実行委員会)の主催で、会期は2022年9月25日(日)から10月16日(日)(最終日は午後3時まで) 。
キュレーター(企画・運営者)を、造形作家のヨシダコウブンさんが務め、16人のアーティストと1チームが出展。
初秋恒例の芸術祭は、2022年に第10回の節目を迎え、太田家住宅(国重要文化財)、静観寺など鞆地区の名所が展示会場となっています。
また連動企画として、豪華景品付きフォトコンテストを開催しています。
感性を投影した作品にハッシュタグとして「#鞆アート2022」と添えて、Facebook・Instagramから投稿可能です。
その他不明な点については、鞆の津の商家(福山市市鞆町鞆606)に設けられた総合案内所(期間中、土・日・祝日のみ)で確認してください。
「鞆の浦 de ART 2022」の主な会場と展示作品
作品のなかには恒久展示されるものもありますが、鞆の浦で鑑賞できるのは会期中のみ一期一会の展示です。
美術館で感じるうやうやしげな緊張から解放されて、自由気ままに作品世界を味わいませんか。
いざアート・トリップ!
末代に受け継ぐべき鞆の価値 観光の新拠点「鞆てらす」
2022年7月にオープンした「鞆てらす」は、国の重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に選ばれた鞆町の中心部(約8.6ヘクタール)の、町並み保存の取り組みを紹介する新施設。
また近世港町の遺構や鞆の祭りなどの特色が、複合的なストーリーとして評価された日本遺産「福山・鞆の浦」を紹介するスポットです。
明治時代の町屋を再生した建物(東側部分)の雰囲気に浸りながら、3つの展示エリア(潮待ちの港・鞆と祭・町並み保存)で、鞆の浦に関する歴史・文化についての学びを得ることができます。
町並み散策の前に立ち寄っておくと、その後の行動で新たな発見が増えるはず。
- 開館時間:午前9時~午後5時
- 休館日:火曜日
- 入館料:無料
6名の作品が一挙に鑑賞できるメイン会場「太田家住宅」
太田家住宅は、かつて「保命酒中村屋」として、鞆の浦の特産品・保命酒のほか、さまざまな酒類の醸造を手掛けていました。
また一方で、多くの歴史的要人を迎える西国大名の宿所であり、明治に入ると廻船業者の太田家へ譲渡、1991年には国の重要文化財に指定されています。
今回は太田家住宅の主屋・酒蔵などが展示会場となっています。
江戸末期~明治初期の姿を今にとどめる施設を舞台に、アーティストの感性はどのような作品を生み出したのでしょうか。
- 開館時間:午前10時~午後5時
- 休館日:火曜日
- 館料:中学生以上400円・小学生200円
展示会場となる歴史的な建造物には、堆積した時間による重々しさがあり、創作物を設置すれば、幾らかの違和感が生じるのは避けられないことでしょう。
そうした状況に、アーティストは独創性と高度な表現技法で挑んでいるともいえます。
そこで鑑賞者に届くものがあれば、場景を変容させる新たな何かが立ち現れるかもしれません。
「なぜここ?」の違和感をそのまま楽しむのもいいですが、構図や配置、色合いをじっくり眺めて、どのような主題の比喩なのか思考してみるのもアート鑑賞の喜びのひとつです。
「鞆の浦 de ART」を陰で支える ヨシダコウブンさん
自身も造形作家でありながら、2012年の「鞆の浦 de ART」立ち上げからキュレーターを務めるヨシダさん。
10回目となる今回、ようやく迎えた初日の表情は、天気と同様、晴れやか。
福山市近隣で活躍するアーティストに声を掛け、鞆の浦に招いて打ち合わせを重ねて、公開に至りました。
展示会場を広域に分散させた前回の教訓を踏まえ、今回はコンパクトに開催。
とくに高齢の観覧者の負担は軽減され、移動があまり苦になりません(グリスロも利用できます)。
運営側も若くないので、(コンパクト開催は)自然の流れ、とヨシダさんはいいます。
節目の10回を迎えても、気負うことなく変わらないその姿勢に、招待作家や関係者は信頼を寄せているのでしょう。
本展の次代を継ぐキュレーター候補が求められるなか、ヨシダさんへの期待は今もって小さくないようです。
おわりに
鞆の浦を「潮待ちの港」と呼べるのは、厳密には、潮の満ち引きを利用して船が航行していた頃(蒸気船や機帆船の登場以前)までのこと。
しかし今でも、当地では潮時をゆったりと待つような、穏やかな時間感覚を抱くことがあります。
それは都市の時間の流れとは異なる、鞆の浦特有のもの。
「鞆の浦 de ART」に出品された作品は、そうした空気感をまとったものが多く、眺めているうちに周囲の環境と一体となった心地よさを感じさせます。
作品の記憶と鞆の浦の風景が結びつけば、なお一層、心に印象づけられる体験となるでしょう。
潮待ち仕掛けの現代アートに触れて、芸術の秋を堪能してみませんか。
鞆の浦 de ART 2022のデータ
名前 | 鞆の浦 de ART 2022 |
---|---|
期日 | 9月25日(日)~10月16日(日)(最終日は午後3時まで) |
場所 | 福山市鞆町 |
参加費用(税込) | 無料 (太田家住宅のみ有料:中学生以上400円・小学生200円) |
ホームページ | TOMONOURA de ART 2022 |
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