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2022年11月05日
「ベニート・ムッソリーニは暴君だったが、少なくとも定刻通りに列車を走らせた」という言葉があるように、独裁者はよく冷酷だが有能な人物だと思われがちです。しかし、夜の照明の明るさを衛星から調べた研究により、独裁国家が発表する経済成長率が実態とはかけ離れていることが分かりました。
How Much Should We Trust the Dictator’s GDP Growth Estimates? | Journal of Political Economy: Vol 130, No 10
https://doi.org/10.1086/720458
How Much Should We Trust the Dictator’s GDP Growth Estimates? | BFI
https://bfi.uchicago.edu/insight/finding/how-much-should-we-trust-the-dictators-gdp-growth-estimates/
A study of lights at night suggests dictators lie about economic growth | The Economist
https://www.economist.com/graphic-detail/2022/09/29/a-study-of-lights-at-night-suggests-dictators-lie-about-economic-growth
経済発展の指標として国内総生産(GDP)がよく用いられますが、GDPは政府が都合よく改ざんしやすい指標でもあります。そこで、経済学者のルイス・マルティネス氏は、世界銀行が集計している世界184カ国のGDPデータと、アメリカ海洋大気庁が運用している防衛気象衛星計画が観測した各国の夜間照明から推測される実際の経済発展を比較する研究を行いました。
その結果が以下で、円の大きさはGDPの規模を、円の位置の高さは成長率を表しています。また、上下に分かれている場合は上が政府発表のGDPを、下が衛星観測から推測されるGDPを示しています。
まず日本を含めた自由な国を見て見ると、ガーナやペルーなどの例外があるものの、公称のGDPと実際のGDPの差はほとんどありません。
一方で、自由が部分的な国々のほとんどで、国が発表する経済成長と実態の差が見られます。
この食い違いは独裁国家ではより顕著になります。また、中国などの国ではGDPの規模を示す円の大きさも上と下で違うのが分かります。
マルティネス氏が、発表されたGDPを衛星データから推測されるGDPと比較すると、2002~2021年までの独裁国家のGDP成長率は平均147%から76%へとほぼ半分になってしまいました。
さらに、不正は投資や政府支出など、GDPにまつわる数値の中でも特に為政者によって操作しやすい部分に多く、その国の実際の成長が他国より低い場合によく操作が行われることも分かりました。
独裁国家のGDPがあてにならないことを示すエピソードとして、中国の事例が1つ紹介されています。2007年に流出したアメリカの外交文書には、当時地方の党書記だった李克強氏が笑いながら「GDPは参考程度です」と言ったことが記されていたとのこと。実際のところ、中国では経済状態を測るにあたりGDPの代わりに電力使用量などのデータが使われていたそうです。
独裁国家でこのような不正が行われる理由は単純で、その機会と動機がそろっているからです。独裁国家では公式見解に異議を唱えることはできないため、独裁者は自分の都合のいい数字を発表することができます。また、経済が発展しないことは無能さや弱さの表れだと思われてしまうため、独裁国家はそのような実態を国民に見せることができず、いかに自国が発展しているかをアピールし続けなければなりません。
マルティネス氏の研究を取り上げた経済誌のThe Economistは、「独裁者がそうであるように、独裁国家の国民は自分たちが嘘をつかれていると信じていることがしばしばです。同様に、他国の人間も独裁国家が主張する経済発展には懐疑的であるべきでしょう」とコメントしました。
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