【oceans】
そこで、日々SNSなどで災害情報とその対策を配信し続ける、国際災害レスキューナースの辻 直美さんに教えてもらった防災テクニックを紹介。
「震度6以上の地震が発生した際の自宅避難」というシチュエーション想定のもと、いますぐ役立つこと、やってはいけないことをまとめた。
教えてくれたのは……
辻 直美さん
①1日の水消費量は1人250L以上!“備蓄水”足りてる?
災害時、人が1日に必要とする最低限の水の量は、飲食用に2L、生活用水に1Lの計3L。
平時(平均214L程度)とは比較にならないほど少ないが、この圧倒的な差をイメージできていない人が非常に多いと辻さんは言う。
「1日3Lというのは本当に最低限、生活の中で必要な量です。例えばご家族の中で、奥様や女の子の髪の毛が長いとなると、3Lでは賄えないことになります。最低限の目安はあるけども、それぞれの“清潔”に対するニーズによって変わってくるわけです。
これが、普段どれだけ水を使っているのか把握していないと、『3Lもあれば余裕で足りる』と簡単に考えてしまう。以前、知り合いの男性に『1日3Lの水で2日間過ごしてみてください』という実験をお願いしたところ、1日で『もう無理』と音をあげていましたから」(辻 直美さん、以下同)。
②「風呂に水を溜める」はNG!? 防災テクをアップデートせよ
昔から「地震が来たら、風呂に水を溜めておけ」とはよく言われるが、今、それは絶対にNGだ。
「お風呂に溜めた水を何に使うか、というアンケートをとると、約8割の人が『トイレを流すのに汲み水として使いたい』と答えます。 でも、それはやっちゃダメなんです。 なぜなら、地震によってトイレの配管が割れている可能性があるから。マンション住まいの方なら特に注意してください」。
ではほかに、風呂の水をどんな用途で使うのか。 洗濯? 食器洗い? いやいや、そもそもお風呂に溜めた水って、そんなに清潔なのだろうか?
「バスタブに直接、水を入れるのではなく、45Lのゴミ袋を2枚重ねたものに水を入れてバラバラに保管しておく。1つ35L程度の水袋を3つくらい作っておけば、100L程度の清潔な水が備蓄できることになります。袋ごとに、飲用、洗濯用、食器洗い用などと分類しやすいので便利です」。
ひと昔前は良しとされていた常識も、今や完全に過去の話、防災のテクニックもアップデートが必要なのだ。
③簡易トイレはペットシーツを代用!日用品の活用法
防災グッズとして売られている「簡易トイレ」を備えている人も多いだろう。しかし、辻さんはこう警笛を鳴らす。
「簡易トイレを使ったことはありますか? 実際に使ってみると、開口部が小さかったり、容量が少なかったり、糞尿が漏れてしまうものもあるんです。ましてや、災害が起きた非日常時に、慣れていないものを使うのはおすすめしません」。
そこで辻さんが勧めるのは、「ペットシーツ」を活用すること。
「災害時は、家にあるモノをいかに工夫して普段と同じ生活ができるようにするかが大切です。ペットシーツを使うことで、“水を流さない”ということを除けば、いつもと変わらない自宅のトイレが使えるんです」。
ペットシーツの使い方は、
① 便座を上げて、便器に45Lのゴミ袋を2重にして被せる
② ペットシーツの吸水面を表にして3つ折りにする
③ それを便器のくぼみにセットし、便座を下ろす
こうすれば、いたって簡単に簡易トイレが完成するのだ。
④高くてマズイ非常食より「サッポロ一番 塩ラーメン」
「基本的に、『災害用』として売られている食品は一切備蓄していません。理由はズバリ、高いのに美味しくないから」という辻さん。
普段食べ慣れていないもの、食べたことのないものを食べることは、それだけで非日常感が強くなる。ましてや、停電や断水が起こっている状況と考えると、どんどん窮屈になって結果、心が折れてしまうという。
そんな辻家でストックしているのは「サッポロ一番 塩ラーメン」。これが、最もアレンジが効くそうだ。
「私は塩ラーメンのままは食べません。焼きそば、そば飯、パスタとして使います。試行錯誤の結果、アレンジするのに『塩ラーメン』がいちばん使いやすかった。
いろいろな食材や調味料と、粉末スープとの相性が良かったんですよね。例えば、トマト缶を混ぜても邪魔にならない。そんなわけで我が家では『サッポロ一番 塩ラーメン』のストックがいちばん多いです」。
⑤避難時の心得「非日常でも“我慢”せず、“準備”せよ!」
いくつもの被災地へ赴いた辻さんは、情報と現実が大きくかけ離れていることを、身を持って痛感している。
「避難所へ行けば何とかなると、何も持たずにやってくる人がたくさんいるんですね。でも、まわりにいる人も同じ被災者。自分と同じように必死ですから、何もしてくれないし、何も分けてもらえない。これが現実です」。
だからこそ準備が必須で、さらにそれらをどう使うのか、シミュレーションしておかなければ意味がない。
「年に4回、自主的にライフラインを切って、家族みんなで訓練してみてください。そうすれば年々、防災スキルが上がっていきます。準備しておくことが自信になって、いざというとき慌てずに済むし、判断も冷静にできる。
これだけ災害が多く起きている昨今です。『被災は非日常なんだから、起こったらとにかく我慢するしかない』とか、そういう段階ではないと思います」。