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【論座】同郷の池田勇人、宮沢喜一が率いた宏池会と二人が尊敬した石橋湛山の思想・政策を範に

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岸田首相が宏池会の大先輩に学ぶこと~政治家として真価が問われる2022年

同郷の池田勇人、宮沢喜一が率いた宏池会と二人が尊敬した石橋湛山の思想・政策を範に

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

岸田文雄首相=2021年12月22日、首相官邸

岸田文雄氏が首相になって初めての新年が開けた。昨年暮れにかけて、メディアの世論調査では内閣支持率が軒並み上昇基調(日経新聞、支持率65%・不支持率”26%。朝日新聞、支持率49%・不支持率23%。毎日新聞、支持率54%・不支持率36%など)なこともあり、気合十分の迎春というところだろう。

支持率を上昇させた二つの理由

支持率が上昇している理由として、二つのことが挙げられよう。一つは、首相本人の性格に好感が持たれてきたことだ。

岸田氏への一般的な印象としてしばしば耳にするのは、「明るい」「さっぱりしている」「情がありそう」「意地悪そうではない」という声である。もちろん、人として好感度が高いことが、そのまま首相としての適格性につながるというものではない。しかし、好感度が高ければ、世論がその発言に抵抗なく耳を傾けてくれるから、重要な要素には違いない。その点では、立憲民主党の新しい代表になった泉健太氏も負けてはいない。

もう一つは、岸田首相の判断や発言から、「安倍離れ」を始めたように見えるからだろう。

おそらく、これは岸田首相自身がさほど強く意識しているとは思えないが、安倍晋三・元首相から見れば、そう見えることが少なくない。年末に「アベノマスク」の年度中の廃棄を決めたことが、支持率のアップにつながっているのだろう。

政治家としての真価が問われる時期に

さて、内閣発足から3カ月の“助走期間”が終わり、年もあらたまっていよいよ、大きな転換点にある経済や外交に、首相としてどのような指導力を発揮するか、注目される時期にさしかかった。

新型コロナウイルス感染症への対応はもちろんだが、平成の30年間にすっかり劣化した政治や経済の立て直し、1972年の国交回復から50年を迎える中国との関係構築は、岸田首相が自ら信じる思想や政治理念が背景になければ、とうてい手が着けられないことだ。岸田氏の政治家としての真価が問われていると言っていい。

当然のことながら、その思想の大筋は、岸田氏が会長を引き継いでいる派閥・宏池会と同じ方向性を持つはずだ。本稿では、宏池会について、詳しくみていく。

自民党の保守本流を形成した宏池会

岸田首相はかねてから、最も尊敬する政治家として、同じ広島県人である池田勇人・元首相を挙げている。

自民党は1955(昭和30)年に、当時の自由党と民主党が「保守合同」して結成された。宏池会は自由党系だった池田勇人によって1957(昭和32)年に創立された最古の派閥である。

後漢の学者だった馬融の「高光の榭(うてな)に休息し、以て宏池に臨む」という一文から、陽明学者の安岡正篤が「宏池会」と命名したとされるが、そんな本来の意味はともかく、「宏」は広島の「広」、「池」は池の「池」を表していると、派閥の創立当初から言われてきた。

宏池会は、当時、勢いがあった岸信介系に対抗する勢力としてつくられ、これ以後、自民党総裁を7人、首相を5人も輩出する名門派閥として継承されてきた。筆者も鈴木善幸会長、宮沢喜一会長の時代に、宏池会に所属している。ちなみに、宮沢氏も広島県人である。

自民党において、旧自由党系の「保守本流」は、大筋ではこの宏池会と旧田中角栄派(後に経世会)によって形成されてきたのである。

記者会見で所信を語る池田勇人首相=1963年7月19日、首相官邸

宏池会の思想・政策の六つの特徴

保守本流の武闘派と言われた経世会に対し、理念型の派閥と言われてきた宏池会には、創立当初からその思想・政策にかなり明確な特徴がある。

国策の誤りを反省

第一に、先の大戦に至る日本の「国策の誤り」を指摘する歴史認識である。具体的には、我が国による侵略戦争や植民地支配に対する深い反省である。これは、自民党内の岸信介・福田赳夫系から安倍晋三氏にいたる「清和会」の流れが持つ歴史認識とは明らかに異なる。

自由の抑圧には反対

第二に、言論・表現・学問・信仰などの自由を抑圧したことが、前述の「国策の誤り」を生んだ要因だとして、言論の自由などの制約には基本的に反対する点だ。この観点からすると、日本学術会議の会員任命拒否などは、強権政治に向かうものと認識され、宏池会理念、旧自由党の理念と反することになる。

「保守本流」の源流の一角とされる石橋湛山・元首相は、自由権が将来の豊かな構想を担保するという旨の発言をしている。自由を制約すればするほど、将来に向けた構想が限定的で貧弱になってしまうという趣旨だ。

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