【読売新聞】
2022/12/25
陸上の水槽でサバを育てるビジネスが鳥取県内で広がっている。海岸近くで掘削した井戸からくみ上げた地下海水は自然の砂利や砂で 濾過 されるため、サバに寄生虫がつきにくく、生でも安心して食べられるという。水産物の安定供給が課題となる中、取り組みを追った。(西村歩)
井戸掘りのプロ
岩美町の網代漁港近くに大きな水槽が13基並ぶ。温泉の掘削やボーリング事業を手がける「タシマボーリング」(鳥取市)が運営する野外の養殖場(約1700平方メートル)だ。水槽では2万~3万匹のサバが泳ぎ回り、パイプからは地下の岩盤からくみ上げた海水がかけ流しになっている。
稚魚を県栽培漁業センター(湯梨浜町)から仕入れ、体長約30センチ、重さ約250~300グラムの脂ののった成魚に育つと出荷する。地下からくみ上げる海水は地中の砂や砂利で濾過されるため、寄生虫が付きにくく、刺し身などの生でも安心して食べられるという。海上の養殖と比べると、赤潮や台風などの影響も受けにくく、安定した生産が期待できる。
この施設では元々、JR西日本が2017年から「鳥取生まれの箱入り娘 お嬢サバ」と名づけてブランドサバを養殖し、首都圏の飲食店や量販店などに提供してきた。タシマはJR西の依頼を受け、周辺のボーリング調査や地下約10メートルから海水をくみ上げる井戸の管理を請け負ってきたが、昨年4月、新たな地域産品として養殖を地元企業に担ってほしいというJR西から、施設の管理と生産を引き継いだ。
環境やさしく
水温をサバの回遊に適した約15度に保ったり、水質を調整したりする装置などを24時間稼働させるため、当初は電気代が月20万~30万円かかっていた。経費削減のため再生可能エネルギーに注目し、国や県の補助金を活用して6月に太陽光パネル124枚を水槽の屋根に設置。電気代はおよそ半分に抑えられたといい、田島大介社長(52)は「環境に負荷をかけるような陸上養殖では元も子もない。少しでも自然の力で回していきたい」と話す。将来的には自社のブランドサバ生産も目指している。
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県によると、タシマボーリングのほかに、米子市漁業協同組合でもJR西の「お嬢サバ」の養殖が進められ、ニッスイ(東京)と子会社の弓ヶ浜水産(境港市)、日立造船(大阪)の3社もサバの陸上養殖に取り組んでいる。
サバ以外にも広がる。廃棄物処理業「三光」(境港市)は、産業廃棄物の処理で発生する排熱でキジハタを陸上養殖する。県水産振興課の担当者は「県内ではヒラメやサーモンなどさまざまな陸上養殖が進んでいる。水産業のさらなる発展につながれば」と期待している。
生産量、就業者減
陸上養殖の背景には、水産資源の確保や漁業人口の減少への危機感がある。
農林水産省によると、2020年の漁業と養殖の生産量は約423万トンで、20年前より3割以上減った。
就業者は約13万人(2021年)で、03年の約24万人の約半分にまで減少した。県内の就業者は約1100人(18年)で、10年間で約440人減少した。県水産試験場の担当者は「高齢化が進み、担い手不足が深刻になっている」と指摘する。
膨らむ市場規模
世界的な水産物需要の高まりから、安定して供給できる陸上養殖の取り組みは全国でも拡大している。調査会社「矢野経済研究所」(東京)によると、2025年度の陸上養殖の市場規模は約100億円となり、20年度の1・5倍に膨らむ見通し。同社の担当者は「養殖業は定質、定価格、定時、定量に対応できるメリットがあり、今後も異業種の参入が増えるのでは」と分析する。
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