【毎日新聞】
2023/3/21
ウエアラブル端末として常時身に着けるスマートウオッチ(腕時計型端末)を、診療に活用する医療機関が広がっている。米アップルの「アップルウオッチ」は、心電図アプリが不整脈の早期発見に役立っている。米グーグルも昨年10月、「ピクセルウオッチ」を発売した。高機能化と品ぞろえの拡充により、医療や健康管理での利用が進みそうだ。
東京都内の60歳代の男性は2021年秋、地域のクリニックの紹介で杉並区阿佐谷北の河北総合病院(杉村洋一院長)を訪れた。10年以上前から突然の動悸(どうき)に悩まされていたが、24時間計測するホルター心電図検査などでも記録できなかった。発作があって救急外来を受診しても症状はいつも治まっていた。記録がなければ医師は診断できない。男性は米アップルのアイフォーンを持っていたので、循環器内科副科長で不整脈専門医の井藤葉子医師はアップルウオッチの装着を勧めた。
アップルウオッチは20年、心電図アプリと不規則な心拍を通知するプログラムが厚生労働省から医療機器として承認され、21年1月から国内で利用できるようになった。発作が起きたら、ウオッチの側面にあるボタンに指を30秒間触れて心電図データを記録すると、「洞調律(正常)」「心房細動(不整脈の一種)」「低心拍数・高心拍数」「判定不能」に自動的に分類される。専門医は波形からさらに細かい情報を読み取ることができる。
男性の心電図は、1分間に190近い心拍数を記録して「発作性上室性頻拍(ひんぱく)」が疑われた。この病気は、脈が急に速くなってめまいやふらつきを引き起こし、失神する例もある。正式な検査で診断がつき、男性は3泊4日の入院でメスを使わない負担の軽い手術を受け、快適な日常生活を取り戻した。3カ月後の外来では「長い間、ドキドキしていたのがうそみたい」と喜びを語ったという。
同病院は22年3月、正式に「アップルウオッチ・スマートウオッチ外来」を開設した。同10月までに、この男性を含め12人が受診し、うち11人が心電図を記録できた。5人が発作性上室性頻拍、3人が脳梗塞(こうそく)の原因になる発作性心房細動と診断がつき、この8人に必要な治療を施し、症状は治ったり改善したりした。
井藤医師は「不整脈の診断と治療は、発作が起きた時の心電図が重要なので、スマートウオッチは有効です。ただし、万能ではないので胸につらい症状があったら病院を受診してください」と話す。
調査会社のMM総研(東京都)によると、スマートウオッチの21年度の国内販売台数は、前年度比49・6%増の343万2000台と15年度の調査開始から6年連続で過去最高を更新し、26年度には639万台まで拡大すると予測する。
21年度のメーカー別シェアは、米アップルが211万5000台の61・6%と大きくリード。2位は米フィットビットが35万9000台で10・5%。
スマートウオッチは、スマートフォンと連携させて使う。アップルウオッチの最新機種「シリーズ8」(5万9800円~)は血中酸素濃度や皮膚温測定、運動、消費カロリーなど健康関連の機能が充実している。米グーグルの「ピクセルウオッチ」(3万9800円~)も、心拍数や歩数、睡眠状態などの測定機能を搭載。心電図は現時点で日本では使えないが、「日本での許認可取得に向けて取り組んでいる」(同社広報部)という。
還暦前、記者も挑戦
「自己最高記録を更新しました。やりましたね」「まだ時間はありますよ。30分の早歩きが必要です」。左腕に装着したアップルウオッチの表示が、運動を応援してくれる。
還暦を前に、記者(59)が気になっているのが高血圧など生活習慣病。クリニックの医師からダイエットを勧められ、昨年11月下旬、シリーズ8を購入し、体験してみた。
アイフォーンとペアリングし、生年月日や性別、身長、体重などを登録。毎日の活動量を計測するアプリ「アクティビティ」で、「ムーブ」(消費カロリー)、「エクササイズ」(早歩き以上の運動時間)、「スタンド」(1時間のうち椅子から立ち上がって1分以上動いた回数)の目標値を設定した。赤緑青の3色リングが進み具合をわかりやすく視覚化し、1周すると1日の目標を達成。歩数や距離、移動経路なども記録する。
約4カ月間、1時間程度のウオーキングを軸に毎日続けた。実績に応じて目標値をアップするよう促され、毎月の宿題も出る。3月の宿題は「7・3キロ以上の移動を14回」。苦しかったが、意地になって最短の14日にクリアした。
体重は約6キロ減。十分な成果とは言えないが、アップルウオッチの励ましや視覚化は運動を続ける意欲を向上させるのは確か。スマートウオッチは、病気の予防や健康作りの機能で中高年にも愛用者が増えそうだ。【高橋秀郎】