【日経新聞】
2023年4月21日
東京大学は今秋にも、川崎市内の研究施設に米IBM製の最新鋭の量子コンピューターを設置する。性能の目安となる「量子ビット」の数は127で、国内に置かれるものとしては最高となる。バッテリー開発などへの応用が期待され、トヨタ自動車や三菱ケミカルグループなどが参加する産学協議会が利用する。実用化に向けた研究が国内で一段と進む。
東大と日本IBMが21日、都内で記者会見を開き明らかにした。東大は2021年7月に国内初となる汎用型のIBM製量子コンピューターを川崎市内の施設に導入した。新たに最先端機種を設置し、今秋にも稼働を始める。
計算の基本素子である量子ビットの数は127で、従来の27量子ビットから約5倍になる。理化学研究所が3月にクラウド上で利用可能にした国産初号機の64量子ビットを上回る。東大の相原博昭・副学長は記者会見で「宇宙や創薬、人工知能(AI)、金融などの重点分野の研究を進展させ、量子によるイノベーションをもたらすことを目指す」と述べた。
量子コンピューターは複雑な問題をスーパーコンピューターの1億倍以上の速さで解く可能性を持ち、自動車や化学、創薬をはじめとする様々な産業の変革を後押しすると期待されている。IBMによると、今回導入する127量子ビットの計算機が北米以外で稼働するのは初めて。
東大が使用権を専有し、協議会に参加するトヨタやソニーグループなどの企業が利用する。高性能な計算機を頻繁に活用できる環境が国内で整備されれば、企業が関連する研究成果を創出しやすくなる。
現状の量子コンピューターは動作が不安定で計算の際にエラーが生じるなど課題を抱える。どんな用途で力を発揮するか、世界でも手探りの段階だ。将来は幅広い産業の競争力に影響を及ぼす可能性があり、いち早く導入するための企業間の競争も活発になっている。