【gentosha】
2023.7.11
「社員がうちは給与が低いと言っているようだ」「一人50万円も夏季賞与を支払っているのに、社員に少なすぎると言われた」…税理士という仕事柄、経営者からこのような声を聞くことがあります。2023年夏の民間企業平均夏季賞与は40万円276円とされており、50万円は決して少ない賞与ではないはずです。なぜ、経営者と社員で、給与に対する感じ方に差が出てしまうのでしょうか。給与の仕組みから紐解いてみましょう。※本稿は、税理士の都鍾洵(みやこ しょうじゅん)氏が事例をもとに解説します。
31歳営業マン・佐藤孝雄(仮名)さんの手取り
佐藤さんは機械メーカーの営業をしている31歳のサラリーマンです。今月の給与振込額を見て「今月もカツカツだな……。せめて年齢と同額くらいの手取りは欲しいところだが……」と落胆していました。
前日にもらった給与明細の袋を開けると、給与明細には次のように書かれています。支給項目として、総支給額300,000円、交通費8,950円と記載されています。また、控除項目には、健康保険料15,000円、厚生年金保険料27,450円、雇用保険料1,853円、所得税6,750円、住民税12,800円、控除合計額63,853円とあります。そして、差引支給額は245,097円となっています。
ちなみに、厚生労働省の『令和4年 賃金構造基本統計調査』によると、30~34歳の平均月収は30.2万円となっており、佐藤さんはちょうど平均的な給与をもらっていることになります。
「25万円もないのかぁ。うちの会社はケチだなぁ……」
佐藤さんは通帳に振り込まれた金額、つまり『手取り額』にフォーカスしています。次に、経営者側の視点から見てみましょう。
経営者側から見ると…
竹田工芸株式会社(仮名)の竹田社長(50代・仮名)は「何とか今月も社員の給与を支払えて良かった。それも社員の皆には概ね年齢と同額くらいは支払えているぞ」とホッとしています。
実は、会社の社員給与に対する負担額は、給与明細に記載されている額面を大きく超えるため、資金繰りの大部分が給与関連の経費である場合も多く、「給与を支払えてホッとする」という中小企業経営者は少なくないのが現状です。
会社負担額が給与明細に記載の額面を超える理由を、先ほどの佐藤さんの例で見ていきましょう。
総支給額300,000円と交通費8,950円は当然会社負担です。この時点で佐藤さんの手取りの認識(25万円以下しかもらっていない)とは6万円(①)ほど乖離します。
更に、社会保険料は労使折半のため、健康保険料と厚生年金保険料の合計額42,450円(15,000円+27,450円)(②)は会社が負担します。つまり、社員の給与から控除された社会保険料の倍額84,900円が会社の通帳から引き落としされるのです。この時点で10万円ほど認識の乖離(①+②)が生じています。
更に、雇用保険料にも会社負担があり、しかも会社負担の方が多いのです。1,853円の控除額の約1.5倍にあたる額を会社は負担しています。