【BBCjapan】
2023.10.10
パレスチナ自治区のイスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突で、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は9日、ハマスへの攻撃は始まったばかりだと演説した。双方の死者は約1600人に達している。こうしたなか国連は、ハマスが実効支配するガザ地区への物資搬入が許可されなければ、同地区で新たな人道危機が発生すると警告した。
ハマスが攻撃を開始してから3日目のこの日、イスラエルのネタニヤフ首相はテレビ演説をし、武装したハマスのメンバーがまだイスラエル国内にいると述べた。
また、ハマスに対して「強大な軍事力」を行使するとし、「ガザでの空爆は始まりに過ぎない」と説明。野党に対しては、挙国一致態勢の政府を組むよう求めた。
これまでに、イスラエルでは少なくとも900人、ガザ地区では約700人が死亡したとされる。
ハマスの軍事部門として知られるアル・カッサム旅団は、イスラエルが事前警告なしにパレスチナの民間人に対する空爆を実施した場合、イスラエル民間人の人質を殺害すると脅迫した。
ガザ地区を「完全包囲」
こうした中、イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相は9日、ガザ地区を「完全に包囲」すると述べた。
また、「電気、食料、水、ガスのすべてを止める」、「私たちは動物と戦っており、それに見合った行動を取っている」と付け加えた。
同地区の住民によると、ハマスがイスラエルへの攻撃を開始した7日以降、支援は届いていないという。
BBCが現地で撮影した映像からは、イスラエルの空爆によって建物が倒壊し、がれきが道路をふさいでいる様子がわかる。
イスラエルによる攻撃では700人近くが死亡したほか、数千人が負傷したと報じられている。
ガザ地区には約230万人が暮らす。イスラエルとの対立が続く中、住民の8割は人道支援を頼りに生活している。
地区内はハマスが実効支配しているが、空域と海岸線はイスラエルが掌握している。また、人と物の出入りもイスラエルが制限している。
ガザ地区と接するエジプトも国境を厳しく管理している。
イスラエルは7日朝にハマスの攻撃が始まって以来、食料や医薬品を含むすべての物資について、ガザ地区への供給を停止している。
食料や水の不足の懸念
国連のステファン・デュジャリック事務総長報道官は、ガザ地区ではこれまでに医療従事者12人以上が死傷し、少なくとも7カ所の医療センターが被害を受けたと述べた。
一方、同地区では多くの人が電気やインターネットを使えない状態にあり、食料や水の供給も間もなく途絶える恐れがある。
デュジャリック氏は、「水や下水、衛生施設が被害を受け、40万人以上に影響が出ている」、「ガザ発電所は現時点で唯一の電力源だが、数日以内に燃料が切れる恐れがある」と説明。
国連の世界食糧計画(WFP)がすでに最大10万人のパレスチナ自治区内の難民に食料を供給しており、その取り組みは数日以内に8倍に増強される見通しだと述べた。
ガザ地区では今回の制限が実施される前から、住民らは食料不足や移動制限、水不足に直面していた。
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のジュリエット・トゥーマ広報官は、ガザ地区の人々は現在の状況に「恐怖」を覚え、自らと家族の安全を心配しているとBBCに話した。
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イスラエルのインフラ相は、ガザ地区への水の供給を直ちに停止するよう指示。「過去にあったものは、今後はもうない」と述べた。
パレスチナ自治政府の保健省は声明を発表。イスラエルの行動により、病院では医薬品などの医療物資と燃料が不足しているとした。
その上で同省は、イスラエルが「送電線を再開」させ、医薬品、燃料、発電機などの緊急物資を供給するよう、国際社会にイスラエルへの働きかけを求めた。
イスラエルはここ数日間、ガザ地区への大規模な報復空爆を実施している。8日夜は特に激しく、ガザ地区への空爆としてはここ数年で最大だった可能性がある。
空爆の一部は、ハマスが7日朝に攻撃を開始したガザ地区東部の国境地帯を標的にした。イスラエルは、この地域での治安強化を狙っているとみられる。
イスラエルが国境地帯で砲撃を行ったとの目撃談も報じられている。
イスラエルはガザ地区でハマスを標的にしていると説明している。だが、一般住民が攻撃されたとの報道もある。
パレスチナの外務省によると、ガザ地区のアル・シャティ(別名ビーチ)とジャバリアの二つの難民キャンプがイスラエルの空爆を受けた。死傷者が出たという。
インターネットに投稿されたジャバリア難民キャンプとされる映像には、遺体が運び去られる場面や、血とほこりにまみれた男性の姿など、混乱が広がっている様子が映っていた。
同省はまた、空爆でガザ地区内の国連の学校が攻撃されたとした。同校には子どもや高齢者など数百人がいたという。
国連はこの攻撃を確認したと説明。学校は「深刻な被害」に見舞われたが、死者はなかったとした。
報道ではモスク(イスラム教礼拝所)や民家も爆撃されたとされる。
AP通信によると、ガザ地区南部ラファの爆撃では一家族の19人が死亡した。
国連は9日、ガザ地区の難民は12万3538人に上ると発表。ほとんどが「恐怖、保護に関する懸念、自宅の破壊が原因」だとした。
国連人道問題調整事務所(OCHA)は、7万3000人が学校で避難生活を送っていると付け加えた。