偉大なリーダーは、「my(私の)」という言い方をあまりしません。たとえ自分が会社のオーナーであっても、「私の会社」ではなく、「私たちの会社」と呼びます。

たとえば知人に対して、「私の会社の売上は20%アップした」とは言いません。あくまでも「私たちの会社の売上は20%アップした」という言い方をします。

また「I(私は)」という言い方もしません。クライアント向けのプレゼンテーションが終了したときに、たとえ実際に話をしたのが自分ひとりだった場合でも、「私は売り込んだ」ではなく、「私たちは売り込んだ」と言います。

偉大なリーダー、とりわけチームを最優先するリーダーならなおのこと「my(私の)」や「I(私は)」という表現を使わないのはご承知のとおりです。

偉大なリーダーが「I(私は)」という表現を使う時

ただし、例外があります。スティーブ・ジョブズ氏もそうだったように、偉大なリーダーが「I(私は)」という表現を使う時があるのです。

彼らは誤った決断を下した場合に、「私たちが」決断を下したとは言いません。「私」が決断を下したと言います。

資本に見合わぬ支出拡大をおこなった場合も、そうしたのは「私たち」ではなく、「私」だという言い方をします。「私たちはクライアント向けプレゼンテーションでミスをした」とは言いません。「私が部屋の空気を読まなかった」と言うでしょう。

ミスをしたのがサプライヤーだったとしても、関係ありません。主要投資家が手を引いたとしても、関係ありません。ビジネスに悪影響が及んだのが、自分たちの手の及ばない力が働いたからだったとしても、関係ありません。

責任の伴う立場にあるなら、そのときの主語はつねに「私」でなければなりません。非難を受けるのは「私」、責めを負うのは「私」、犠牲を払うのは「私」なのです。

責任の伴う立場にあるなら、答えにくい質問に応じましょう。責任をとりましょう。従業員に望む行動があるのなら、まずは自分が見本を示しましょう。

ベストセラー作家ダニエル・コイル氏は、著書『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』(邦訳:かんき出版)のなかで、米海軍特殊部隊の元指揮官デイヴ・クーパー氏の言葉を引用しています。

私が思うに、リーダーとしていちばん大切な資質は、自分の失敗を認められることだろう。

失敗したのは「私たち」ではなく、「私」なのです。

自分の言動が原因で問題が発生したわけではないのは明らかなのに責任をとるなんて、おかしいと思われるかもしれません。あるいは、わざとらしい行為じゃないか、と感じるかもしれません。しかし、スティーブ・ジョブズ氏はそうは考えませんでした。

ジョン・ロスマン氏は、著書『アマゾンのように考える 仕事を無敵にする思考と行動50のアイデア』(邦訳:SBクリエイティブ)のなかで、こう述べています。

スティーブ・ジョブズ氏は、Appleの従業員がバイスプレジデント(補佐的な経営幹部)に昇進した時、ちょっとした話をしていました。それは次のようなものです。

オフィスにあるゴミ箱にまだゴミが残っていれば、当然、清掃員にその理由を尋ねるでしょう。それに対して清掃員は、「実は、入り口のカギが交換されていて、新しいカギが手に入らなかったんです」という、筋の通った答えを返してくるかもしれません。

 

清掃員がそう答えるのは筋が通っており、その理由はよく理解できます。カギがなければ、清掃員は自分の仕事ができません。清掃員であれば、そう言い訳をしても許されます。

そしてジョブズ氏は、新たにバイスプレジデントに就任した面々に対してこう語りかけました。

清掃員であるときは、理由は重要です。しかし、清掃員と最高責任者(CEO)の間のどこかで、理由は重要ではなくなります。

別の言い方をすれば、従業員がバイスプレジデントになった時点で、失敗したときに言い訳をすることはいっさい、やめなくてはならないということです。

バイスプレジデントは、生じたミスのすべてに責任があります。あなたが何を言うかは重要ではないのです。

こうしたレベルの責任を受け入れることを、ロスマン氏は、「自分に属するすべてを、自分のものとして受け入れる(owning your dependencies)」と言い表しています。自分の活動範囲にある一切合切について、完全に責任を負うわけです。

たとえば、注文を処理するためには部品が必要なのに、ベンダーからの出荷が遅れているとしましょう。

この場合、確実に出荷してもらえるよう約束を取り付けておく責任が、あなたにはありました。不測の事態に備えて、時間に余裕を持たせておくべきでした。出荷の遅れはベンダーの不手際かもしれません。しかし、必要不可欠な部品が手元に届くよう確実に手配しておくことは「あなた」の責任なのです。

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リーダーが、そうすべき理由

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