2021.10.31 SUNDAY
視覚障がい者は白杖(はくじょう)と呼ばれる杖を使って、周囲の安全を確認しながら歩行します。
そして近年、白杖に電子的な機能を追加したスマート杖に注目が集まっています。
そんな中、アメリカ・スタンフォード大学(Stanford University)機械工学科に所属するパトリック・スレイド氏ら研究チームは、自動運転の技術を応用した新しいスマート杖を開発しました。
この杖は周囲の状況を判断し、使用者を安全な歩行ルートへ導いてくれます。
研究の詳細は、10月13日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。
目次
視覚障がい者に情報を与えるハイテクな白杖
白杖は視覚障がい者にとって有用な道具ですが、「ただの棒」にすぎないため、使用者が得られる情報には限りがあります。
視覚障がい者を支援する、マップ機能と音声案内が搭載したスマート杖というものも存在していますが、これは値段が高く、結局は自分だけの力で移動しなければいけないので、そこまで便利なものではありませんでした。
そこで新たな研究は、使用者がもっと多くの情報を得られるよう電子的な機能を追加したハイテクな白杖を開発しました。
研究者は、この新たに開発した白杖を「Augmented Cane(拡張杖)」と呼称しています。
同じ言葉が使われている技術に「拡張現実(AR:Augmented Reality)」がありますが、これは「コンピュータの力で現実世界に新たな情報を付加する」というもの。
そして拡張杖(英訳:Augmented Cane)も同じようなコンセプトで作られています。
視覚障がい者が知覚している限られた世界に、拡張杖が必要な情報を追加してくれるのです。
拡張杖がもたらすこの付加的な情報は、車の自動運転システムに搭載される各種センサー(GPS、加速度計、磁力計、ジャイロスコープ)やAIの技術が応用されています。
さらに拡張杖は従来のスマート杖の10分の1の値段(数万円)になるよう安価な材料で設計されているとのこと。
では拡張杖によって使用者は、具体的にどのような助けが得られるのでしょうか?
拡張杖の自動運転システムが最善のルートに導いてくれる
拡張杖には自動運転技術や航空機に利用されているLIDAR(ライダー)システムが搭載されています。
このLIDARとは、照射したレーザーの反射光によって対象物までの距離や位置・形状を正確に検知する技術です。
これにより拡張杖は、使用者に代わって周囲の状態を把握。
AIによって情報が処理され、使用者が進むべき安全なルートを導き出します。
さらに拡張杖の先端には、使用者を導くホイールが付いています。
使用者はホイールの回転によって左右に引っ張られるので、そのリードに従うだけで自然と危険物を避けたり、最善のルートを歩行できたりするのです。
そして拡張杖を用いた実験では、視覚障がい者の歩行速度が普通の白杖を用いた場合よりも約20%増加しました。
また目隠しをした健常者によるテストではさらに高い効果が表れており、歩行速度は35%も増加したとのこと。
この結果は、拡張杖が使用者にスムーズな歩行を提供できることを示しています。
また急に視覚を失うなど、白杖での歩行に慣れていない人にとっては、特に大きな助けとなることも分かりますね。
ちなみに拡張杖は「近くのコーヒーショップに連れていく」などのナビゲーションシステムとしても使用できるようです。
現在の拡張杖はプロトタイプであり、製品として購入できるのはまだまだ先でしょう。
しかし設計書や材料リストは公開されており、技術があれば約4万5000円の材料で自作可能とのこと。
今後チームは、機能の改良とさらなるコスト削減を目指します。
Google ニュースを使えば、ナゾロジーの記事はもちろん国内外のニュースをまとめて見られて便利です。
ボタンからダウンロード後は、ぜひフォローよろしくおねがいします。