2021.09.22 WEDNESDAY
電気不要の永久冷却装置が開発されました。
サウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学の研究者たちは、パンチで冷え始める保冷剤の原理「吸熱反応」を応用した、冷却装置を開発しました。
市販されている保冷材は使い捨てですが、この新たな冷却装置は日光と水を供給し続けることで、理論上は半永久的に機能するとのこと。
新たな冷却装置には、いったいどんな秘密が隠されているのでしょうか?
研究内容は9月1日に『Energy & Environmental Science』にて公開されています。
目次
使い捨て冷却材を半永久冷却装置にするたった1つの工夫
「叩いて瞬間冷却」
袋を叩くことで冷え始める冷却剤は、多くの人々にとって身近な反応です。
このタイプの冷却剤の内部には「水と硝酸アンモニウム」が含まれています。
硝酸アンモニウムは水に溶けるときに周囲の熱を奪うという性質(吸熱)があるため、叩いて内部の水袋を割れば、周囲の硝酸アンモニウムが水に溶け始めて、冷却が始まる仕組みです。
しかし多くの人が知っている通り、このタイプの冷却材は使い捨てです。
硝酸アンモニウムが水に溶け切ってしまうと、吸熱反応がストップしてしまいます。
しかし、サウジアラビアのキング・アブドゥッラー科学技術大学の研究者たちはこの冷却技術にひと工夫を加えることで、永久冷却装置にすることに成功します。
冷却材としての機能を終えた水と硝酸アンモニウムの混合液を、サウジアラビアの猛烈な暑さにさらすことで水を蒸発させ、硝酸アンモニウムの結晶を回収するという工夫です。
この奇抜なアイディアによる冷却装置は電力を一切必要とせず、地球上に豊富にある水と日光を交互に与えるだけで、理論上は、半永久的に働くことが可能です。
実験では、最適な比率に設定された水と硝酸アンモニウムを注いだカップは、テスト用の断熱ボックス内部の温度を、わずか20分で25℃から3.6℃に低下させ、その後も15時間以上にわたって15℃以下の状態に留めることに成功しました。
続いて研究者たちは日光を用いてカップを加熱して水を蒸発させ、上の図のように析出した硝酸アンモニウムの結晶を回収しました。
そして再び水を加え、冷却機能が最初と同じレベルで維持されていることを確認します。
硝酸アンモニウムは肥料として使われる極めてありふれた化合物であり、非常に安価で手にすることが可能です。
研究者たちは、この再生可能な冷却材は、電力がない貧しい国々の人々にも冷房を提供する手段になると述べています。
しかし……硝酸アンモニウムを用いた冷却剤には、少しばかり注意すべき問題がありました。
硝酸アンモニウムは爆発する
硝酸アンモニウムは前述したように、肥料としても用いられていますが、実はもう一つ重要な用途が存在します。
その用途とは、爆薬です。
硝酸アンモニウムは北米で使用される爆発物の80%を占める産業用爆薬であるほか、テロリストなどが用いる即席爆薬(IED)の原料でもあります。
また硝酸アンモニウムは過去に何度も巨大な爆発事故を引き起こしていることも知られています。
1946年にテキサス州で起きた爆発事故では、保存していた硝酸アンモニウムが何らかの原因で引火し、周囲1.6kmを「サラ地」に変えてしまいました。
また2020年ではレバノンの首都ベイルートで保管中だった硝酸アンモニウムが爆発し、幅124m・深さ43mのクレーターを形成、さらに爆風波はレバノン全域の家を破壊し、30万人が住む場所を失いました。
さらに硝酸アンモニウムは特定の条件で、水に溶けた状態でも爆発を起こすことが知られています。
このように、硝酸アンモニウムには、少しばかり厄介な性質があるのです。
しかしそれでも、電気を使用せず、水と日光だけで永久に稼働する冷却システムは、電気のインフラが存在しない多くの地域の人々を、致命的な熱波から救う手段になりえます。
研究者たちは今後、より大規模な冷却システムを開発するため、効果的な硝酸アンモニウムの析出法を探っていくとのこと。
私たちが使用している瞬間冷却材が安全なように、析出した硝酸アンモニウムに対する適切な対策ができれば、世界中の人々に冷房を届けることができるでしょう。
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以上【ナゾロジーより】