2022年4月に開校する地元の義務教育学校、「想青学園」の校歌を作詞作曲していただいたT-BOLANの森友嵐士さんのインタビューです。
3月14日に実に28年振りに発売されるアルバムに込められた想いを語られています。
新型コロナウイルスによるパンデミック下で、音楽が持つエンターテイメント力や、心因性発声障害による14年間の空白期間を乗り越えた経験を語られています。
沢山の苦難を克服して、復活をされた森友嵐士さんのインタビュー。 必見です✨
発声障害克服し、奇跡の復活遂げたT-BOLAN 森友嵐士が「空白の28年間」の葛藤語る〈dot.〉
配信
T-BOLANのボーカル・森友嵐士(撮影/平野タカシ)
『離したくはない』『Bye For Now』『マリア』などで1990年代に一世を風靡したロックバンド・T-BOLAN。95年、森友嵐士(56)の原因不明の発声障害のため、人気絶頂の中で活動休止。その後心因性発声障害と診断され、14年ほど歌えない状態が続いていたが、克服して再結成。3月14日には28年ぶりの6枚目のオリジナルアルバム『愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~』をリリースする。長い歳月の中でどのような感情を抱いてきたのか。ボーカルの森友に話を聞いた。 【写真】森友の釣り仲間はまさかのアインシュタイン末裔!写真はこちら
――アルバムリリースは実に28年ぶり。93年発売の前作『LOOZ』から長い時間が経過しました。 28年も経っているなんて、衝撃だよね。T-BOLANはデビューから3年半ぐらいしか活動していなくて、俺の歌が止まっていたからね。最後に作った5枚目のアルバムのレコーディングのことや、ツアーのこと、いろんなことを鮮明に覚えてる。今回、28年ぶりにアルバムができて、空白の時間がピュッて無くなったような感じかな。 ただ、止まっていたような時間の中でも、気づかされることがたくさんあった。28年という時間が無かったらこのアルバムは作れていないし、止まって苦しんでいた時間もその先にちゃんと花を咲かせるんだなと。全部に意味があるんだなと肯定できるようになった。 ――1度目の活動休止の引き金になったのは、95年に発症した心因性発声障害でした。 宣告された当時はドクターから、「たとえ10年リハビリをやっても歌えるようにならないかも」と言われて、「そんなことはあるはずない」と思って受け入れられなかった。でも、歌を取り戻せない状況のまま別の何かをやっても、自分の火が消えてるような感じで何もできない気がした。それぐらい、俺にとってはシンガーであるということがすべての根源みたいになってしまっていたんだよね。歌を取り戻す以外に選択肢はなかったから、自分の病気ととことん向き合った。14年にも及ぶ話だから、時間軸の中でいろんな感情の移り変わりがあったけれど、今ここにいられる理由はただ一つだよ、あきらめなかったから。 ――2015年にはベースの上野博文さんも、くも膜下出血で約2か月半の間意識不明の状態が続き、「高次脳機能障害」を抱えることになりました。上野さんも森友さんも闘病の末、奇跡の復活を遂げています。
自分の気持ちは案外わからないことが多いけど、上野を見ているとよくわかる。上野の退院祝いをした時に、「神様からもらった2つ目の命、やりたいことをやろう。何かやりたいことないのか?」と聞いたら、あいつは「ライブ」って言ったんだよ。当時は体もスムーズには動かないし、言葉もうまくしゃべれなかった。でも、彼の中ではもう一度ステージに立つこと以外に、リハビリと向き合って頑張れる気がしなかったんじゃないかな。音楽をやっている時が自分の人生で一番ワクワクする時間で、生きてることを実感できたから。俺の場合も気持ちは同じだと思う。 ――前作である5枚目のアルバム作成時は、森友さんは20代。50代になった今、創作の源泉になっているものは変わりましたか。 そこは変わらないね。ただ、今回のアルバムにおいて大きく違うのは、パンデミックの中で曲作りしていたこと。このパンデミックの中で何を思い、何を感じ、何を歌にしたいんだろうということをすごく考えた。考えすぎて、最初の数カ月は曲ができなかったんだよね。曲ができるまでに半年ぐらいくすぶっていた。 そんな中で思い出したのは、今回のタイトルチューンになっている、アインシュタインからの伝言。晩年のアインシュタインは、娘に宛てた最後の手紙を残していた(諸説あり)。手紙には、「いつか人類は愛の爆弾を爆発させなきゃいけない時がくる」「人類は愛をつないでいけば、どんな困難も乗り越えられる」といったことがつづられていた。読み直してみたら、愛の力を発揮しなければいけないのは「今だ」と確信した。このパンデミックの中でこそ、このメッセージが意味を持つものだと思うし、アインシュタインの伝言を届けるパイプ役になりたいと思った。 ――ジャケットを飾っているのは、アインシュタインの末裔であるマーク・アインシュタインさん。彼とは釣り仲間だそうですね。 彼とは数年前にあるパーティーで出会った。「マークって何が好きなの?」って聞いたら、魚釣りって。
俺も釣りが好きだったから、LINEで「こんなの釣れたよ」と釣った魚の写真を見せ合う関係から始まって、そのうちに一緒に釣りに行く仲間になった。釣りで仲良くなったものだから、いつの間にか、俺の中でアインシュタインではなく、“釣り仲間のマーク”になっていたわけ。すっかりアインシュタインの末裔だということを忘れていた。 今回のアルバムのジャケットでアインシュタインの有名な舌出し写真を再現したくて、別の人の顔を使って写真の候補を何枚か作ったんだけど、その最中に、「ん?ちょっと待てよ……」と。友達にアインシュタインの血族で、笑うとそっくりな“アインシュタイン”がいるって気づいた(笑)。 ――パンデミック下で作られた今回のアルバム。この期間はツアーの中止など、思うように活動できなかったと思いますが、自分と向き合う時間にどんなことを考えていましたか。 「エンタテイメントを止めることでいいのだろうか」と考えてた。感染対策としてはわかるんだけど、止めれば楽しみや喜びが全部奪われてしまう。人って喜びが奪われると、他人を思いやれる心が減っていく。自身がハッピーじゃなかったら誰かになにかを与えることができなくなるし、究極にいったら、争いしか残らなくなる。止めることでウイルスを遠ざけるけど、人と人とが争う世界が生まれて、それでいいの?と。「喜びを止めたらだめだな、でもどうしたらいいんだろう」とすごく考えたよ。 だから、このアルバムに込められた愛のメッセージを多くの人に届けたい。90年代にヒット曲を出していた頃の自分達の発信力が、今欲しいなって思うよ。俺に財産がいっぱいあったら、100万枚買い取って皆に配りたい、そんな気持ちだね(笑)。1枚でもT-BOLANのアルバムに触れたことのある人なら、聴けばきっと喜んでもらえるはず。新しいT-BOLANを感じてもらえたらうれしい。 (構成/AERA dot.編集部・飯塚大和)