福岡市の実証実験プロジェクト「Beyond Coronavirus」に詐欺SMSや迷惑電話を防ぐ台湾発のアプリ「Whoscall(フーズコール)」が採択されました。
1億DLを突破 オードリー・タン氏も認める詐欺電話・SMS防止アプリ「Whoscall」とは?
ITmedia ビジネスオンライン
「お荷物の住所が不明でお預かりしております」「プライム会費のお支払方法に問題があります」――。こんなSMS(ショートメッセージ)を受け取ったことがある人は多いのではないか。近年、SMSから偽サイトに誘導し、個人情報を盗む「フィッシング詐欺」が急増している。こうした詐欺SMSや迷惑電話を防ぐ台湾発のアプリ「Whoscall(フーズコール)」が世界で1億ダウンロードを超え、規模を拡大している。直近では福岡市が詐欺防止に向けて活用するなど、国内でも熱い視線が注がれている。一体、どのようなアプリなのか。創業者に話を聞いた。
電話が鳴ると、スマートフォンの画面上に「迷惑電話」「詐欺電話」といったアラートが表示される。「郵便局配達員」や「〇〇銀行」といった具合に、電話の相手を表示してくれるため、出るべきかどうか迷うことがない。
Whoscallは2010年創業の台湾発ベンチャー企業「ゴーゴールック(Gogolook)」が開発したスマートフォンアプリ。主な機能は(1)詐欺などにつながる不審な着信の識別機能(2)電話番号の検索機能(3)不要な着信を自動ブロックする機能(4)不審なSMSをブロックする機能――がある。
膨大な量の電話番号を、一体どのようにして識別するのだろうか。それは、東アジアを中心に構築する16億件以上の電話番号情報のデータベースに基づいている。
ゴーゴールックは、各国の電気通信業者と連携するほか、警察当局など各国機関の協力も得てブラックリストの情報提供を受けたり、ユーザーからのフィードバックも受けたりして、日々、不審な番号の識別機能を強化している。
サービスは台湾を中心に、韓国、香港、タイ、ブラジル、インドなどで展開し、世界ダウンロード数は21年11月に1億を超えた。
ある詐欺電話がアプリ開発のきっかけに
WhoscallがうまれたのはゴーゴールックCEOのジェフ・クオ氏が学生の頃に受けた、ある1本の電話がきっかけだった。
香港の競馬協会を名乗る人物から、「競馬で高額賞金が当たった。ついては賞金を受け取るために税金を納めてください」という。ただ、クオ氏自身は競馬の経験はない。不審に思いインターネットで調べると、複数人が同様の電話を受けて詐欺被害に遭っていることが分かった。
「この経験をきっかけに、悪用された電話番号のデータを集めて広く公開すれば、世の中から同様の詐欺被害を減らせると考えました」とジェフ・クオ氏は話す。
こうしてWhoscallは2010年にリリースされた。評判は瞬く間に広がり、13年に韓国IT大手ネイバーから出資を受けたほか、「Google Play」や「App Store」でベストアプリ賞を受賞。20年には、台湾の経済部(日本の経済産業省に相当)が創設した「総統イノベーション賞」も受賞した。
アプリのダウンロード数が順調に拡大していく中で、利用者からの支持を一層強くしたのが、台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン氏との連携だった。
デジタル担当大臣オードリー・タン氏に助言も
新型コロナウイルスの流行が始まった当初、台湾では全住民にマスクが行き渡るよう、タン氏が先頭となり、マスクの実名販売システムを構築。この時、クオ氏は「人々のマスク欲しさにつけこんで詐欺が多発するに違いない」と思ったという。
クオ氏は、マスクの実名販売システムが始動する前に、Whoscallの利用者らにスマホ画面でポップアップを表示して詐欺の注意喚起を実施した。
それでもマスクの実名販売システムがスタートすると、詐欺の報告件数が急増した。詐欺集団は海外から被害者に電話をかけ、「購入手続きの設定に間違いがあった」「健康保険証が無効になっている」などとかたり、折返しの電話を求めて高額の通信量をだまし取る事例があったという。
ゴーゴールックは台湾のコロナ対応指揮センターと連携し「政府のマスクシステムから電話を差し上げることはありません」と声明を発表。さらに、タン氏に対しても「政府から住民へ連絡を行う際は固定電話に限定した方がいい」と助言。Whoscallのデータベースに政府の固定電話番号を登録し、不審な番号ではないことが一目で分かるようにしたという。
タン氏はこれらの動きについて「Whoscallが詐欺やフェイクニュースの防止に政府と協力してくれて感謝している」と述べている。
日本に進出 詐欺SMSの識別機能をリリース
台湾では2人に1人が利用し、いまや社会の情報基盤を担っているともいえるWhoscall。20年11月には日本法人を福岡市に設立し、日本でユーザー拡大に乗り出した。でもなぜ、福岡市なのか。
福岡市は国家戦略特区の1つに指定されており、国内外のスタートアップ企業を積極的に誘致している。企業支援にも注力しており、ゴーゴールックはこうした姿勢にひかれて福岡市への拠点設置を決めたという。
福岡市は20年7月、AIやIoTなどの先端技術を生かし、社会課題の解決につなげる実証実験プロジェクト「Beyond Coronavirus(=コロナを乗り越える)」を実施。ゴーゴールックはWhoscallの実績を買われ、事業に採択された唯一の海外企業となった。
この事業では、希望する市民にWhoscallを3カ月無償で提供。これをきっかけに、国内でも徐々にWhoscallが知られるようになった。
日本進出に合わせて、20年12月には、冒頭でも紹介した、不審なSMSをブロックする「SMSアシスタント機能」を新たにリリース。ゴーゴールックの調査では、日本で21年に国民1人あたり約5件以上の詐欺SMSを受信したとの結果が出ているといい、今後も増加が見込まれている。
21年9月には、日本のApp Storeでアプリランキング総合2位を獲得し、着実にユーザーを拡大しているWhoscall。日本でサービス普及に向けて、どのような戦略を描いているのだろうか。
CEOのジェフ・クオ氏は話す。
「コロナ禍で人同士もオンラインでやりとりをする機会が増え、これまでに増して、詐欺などを誘発する環境にあるといえる。Whoscallの展開を通して、テクノロジーで自分を守ろうという人々の意識を日本でも高めていきたい」
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