【withnews】
2022/07/10
「マイチン」と名乗る理由
SNSで、ミャンマーに暮らす家族や親族まで、簡単にたどれてしまう時代。実名と顔を出すのはリスクでした。デモなどの「反政府活動」を行った人の、家族が拘束されたという話も聞いてました。
故郷を守ること、家族を守ること。
その二つを天秤にかけ、ぎりぎりの選択として名乗った「マイチン」。「マイ」は、チン民族の言葉で、女性の敬称。「チン民族の女性」という意味を込めました。
マイチンさんの”ふるさとの歌”
日本に暮らして12年。
ミャンマーのチン族であるマイチンさんの”ふるさとの歌”を聞きました。
「Lairam Na Dam Maw」意味は”How are You Chin Land”
「遠く離れた、ふるさと、チン州への思いを歌う曲です」
山あいの美しい”故郷”
家族とはチン語を話しますが、1歩家の外に出れば、公用語のビルマ語。「日本語と英語ぐらい違います」
ビルマ族は仏教徒が多く、チン族は大半がキリスト教徒です。
友達の家に遊びに行けば、飾ってあるのが十字架か、仏像か、雰囲気も変わります。
マイチンさんは日曜日は教会に行き、チン族の仲間と祈りを捧げました。
民族・信仰が違っても、それが問題だと感じることはなかったのは、「私が友人に恵まれていたから」と話しました。
チン族の村
「いつかは、何か役に立つことができたら」
そう考える一方で、自分が政治に関わることは想像できませんでした。
物心つく前に起こった1988年の大規模な学生運動では、民主化を求めて立ち上がった多くの若者が、軍部の発砲に倒れました。
「政治とは距離を置きたい」と避けてきました。
ショウスウ民族?
日本留学を目標に勉強し、日本の大学には一般入試で合格しました。
「チン民族? ああ、少数民族ですね」
「ショウスウ民族? それは何ですか?」
初めて聞く日本語。意味を調べて、ショックを受けました。
日本ではビルマ族以外は「少数民族」としてくくられ、「ミャンマー=(イコール)ビルマ族」のイメージなんだと感じました。
「少数民族は武装しているんでしょ」。軍部の情報を鵜呑みにして、そう言う人もいました。
実態と違う――。
「まずは『少数民族』という言葉をなくしたい」。そう考えて、自己紹介では「チン族」と名乗るようにしました。
「私がやらなければ」
国軍の砲撃で黒煙を上げる教会や住宅。山間部に避難する人々。子どもたちが十字架を握りしめて祈る写真がSNSやチン州のメディアで溢れました。それでも、その詳細が国外で報じられることはほとんどありませんでした。
「未成年が殺されている。罪のない人が拘束されている。ミャンマーの事実を知ってほしい」
日本に暮らすミャンマー人は約2万5000人。中でも、チン族は推定で600人前後。「私がやらなければ」
そう頭を下げながらの訴えに、飛び入りで拡声機を握り「大変なのよ助けてあげて」と呼び掛けてくれたおばあちゃん。家から10万円にもなる小銭の袋を持ってきてくれたおじいちゃんもいました。
「たった1票」の理由
それでも、マイチンさんは投票には行きませんでした。
「私が投票しなくても、どうせ、NLDが勝つだろう」という「安心感」があったから。
軍がいいと思っていたわけではないし、「投票したくない」わけでもない。でも、手続きも大変だし。
そんな、なんとなくの気持ちでした。
選挙は予想通り、NLDが国軍系の連邦団結発展党(USDP)に大勝。でも国軍は、その選挙に「不正があった」と主張して、その後のクーデターを正当化しています。
「今だったら絶対に行きます」とマイチンさん。
結果がどうだったとしても、「100人で勝つか、101人で勝つかで、違う。ひとりひとりに意味がある。『私は、あなたたちを支持する』と示せるから」。
駆け寄った男の子がかけてくれた言葉
「僕はいま、ティッシュしか持っていないんですが、ティッシュでもいいですか」
「遠い国」のできごと、でもこの子は何か支援をしたいと考えてくれた――。
子どもの思いに触れて、マイチンさんは涙で言葉が続きませんでした。
本来、自分がやりたかったことを、夢に見ながら。
「私が出会った日本人には『あのとき会ったミャンマー人は印象良かったな』という思い出を残したい。それが私がいま、ミャンマーの若者の将来のためにできることだから」
誇りと志を持って、話し続けます。
「私はミャンマーのチン民族です」
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