【ナゾロジー】
2022.09.23 FRIDAY
プロペラがない! 騒音問題を解決する「イオン風で飛ぶドローン」
いくつかの企業は、ドローンを使って荷物を届ける「ドローン配送」に着目しており、その実現を目指して試行錯誤しています。
解決すべき問題はいくつもありますが、その1つにはドローンの騒音問題が挙げられます。
アメリカ・フロリダ州のドローン開発企業「Undefined Technologies」は、イオン風で空を飛ぶ新しいタイプのドローンを開発中であり、騒音問題にも対処できると主張しています。
2022年9月15日付のプレスリリースでは、「プロペラのないドローン」を4分半飛行させることに成功したと報告しています。
目次
ドローン配送における騒音問題
現在、集配所から個人宅までの荷物配送はトラックによって行われています。
そしてドローン技術の向上により、その仕事をドローンに任せる「ドローン配送」に注目が集まっています。
ところが従来のドローンには騒音問題が付きまといます。
高速回転するプロペラからは、どうしても大きな音が発生してしまうのです。
撮影や調査・警備などの用途では特に問題になりませんが、住宅街を巡るドローン配送では大きな枷となります。
Undefined Technologies社の情報によると、「一般的な業務用配送ドローンは85~96デシベル(dB)のノイズを発生させる」ようです。
ところが、住宅・産業・商業エリアで許容される騒音レベルは50~70dBであり、現在のドローンではオーバーしてしまいます。
ちなみに、地下鉄車内は80dBだと言われます。
地下鉄車内以上の騒音をまき散らしながら住宅街を飛ぶドローンなど現実的ではないでしょう。
Undefined Technologies社は、開発中の新しいタイプのドローンが、こうした騒音問題にも対処できると主張しています。
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イオン風で飛ぶプロペラのないドローン
Undefined Technologies社が開発しているのは、「サイレントヴェントス」と名付けられたプロペラを使わないドローンです。
サイレントヴェントスは、「イオン風」を推進力にして空を飛ぶよう設計されています。
このシステムではまず高電圧の電場をつくることで、空気中の酸素と窒素の分子をイオン化します。
これらイオンは生成された電場に沿って特定の方向に加速され、空気中の中性分子と衝突します。
そしてこのイオンと空気の衝突によって発生した気流「イオン風(ionic wind)」を推進力に利用するのです。
この現象自体は昔から知られており、銅線やアルミホイルでつくられたシンプルな構造でも再現できます。
そして、これらイオン風の仕組みを取り入れ、ドローンを浮かせるまでパワーアップさせたのが「サイレントヴェントス」というわけですね。
「サイレント(無音な)」という名称から分かるように、「プロペラを使わないことで騒音を抑えられる」という考えのもとに開発されているようです。
ではサイレントヴェントスは、実際にどれほど「静か」なのでしょうか?
次ページ「無音」までの道のりは長い「サイレントヴェントス」
「無音」までの道のりは長い「サイレントヴェントス」
2020年の25秒間の飛行実験では、サイレントヴェントスから90dBという数値が計測されました。
「無音」どころか「静音」でもなく、むしろ「ドライヤー(80~100dB)」に近い音量をまき散らしていたのです。
ところが2022年初めには、2分半の飛行と85dBを達成。
最新の報告によると、4分半の飛行を成功させ、騒音レベルも75dB以下に抑えられたようです。
住宅・産業・商業エリアでの許容騒音レベル(50~70dB)に届くまでもう少し、というところですね。
そしてUndefined Technologies社は、「2023年末までには15分間の飛行と70dB以下の騒音レベルを目指す」と述べています。
「無音な、静寂な」という名称をもつわりには、まだまだ「騒がしいドローン」ですが、徐々に静かになっている点は評価できるでしょう。
とはいえ、最新の動画を見る限り、サイズが大きいことや不安定さが残ることなど、騒音以外にもたくさんの課題を抱えているようにも思えます。
「イオン風で飛ぶ静かなドローン」というアイデアをどこまで実現させられるのか、今後の進展に期待したいものです。
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