【ナゾロジー】
2022.10.12
2022.10.13 THURSDAY
2022.10.12 WEDNESDAY
すべてが紙でできた「使い捨てできる電子回路基板」を開発
この数十年で小型電子機器は一層身近なものとなりました。
スマホ、タブレット機器、スマートウォッチだけでなく、使い切りの小型医療機器、環境モニターなども増えています。
同時に電子機器の廃棄量も急増しており、この問題に取り組む必要があります。
今回、アメリカ・ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(SUNY-BU)電気コンピュータ工学科に所属するソクフン・チョイ氏ら研究チームは、紙でできた電子回路基板を試作し、焼却や生分解が可能だと報告しました。
研究の詳細は、2022年9月27日付の科学誌『ACS Applied Materials & Interfaces』に掲載されています。
目次
完全な使い捨て電子機器の開発を目指す
電子機器に含まれる重金属やその他の物質は、適切に処理しないと環境に悪影響を与えます。
この問題は特に「使い切り」「使い捨て」の小型・ウェアラブル電子機器を開発する上で大きな課題となっています。
使い終わったからといって、電子機器をそのまま「燃えるゴミ」として投げ捨てるわけにはいかないのです。
では、環境問題を気にせず「使い捨て」できる電子機器を開発することは可能でしょうか?
チョイ氏ら研究チームは、その第一歩として「安価で廃棄が容易な回路基板」を試作することにしました。
多くの小型電子機器には、ガラス繊維や樹脂、金属配線でできた電子回路基板「プリント基板」が搭載されています。
研究チームは、この回路基板を紙などの燃やせる素材で作ろうとしたのです。
現在でも紙製の回路基板は存在しています。
それでも、それらは特殊な紙が必要だったり、従来の金属製回路部品を紙に取り付けただけだったりと、中途半端なものです。
そこでチョイ氏らは、全ての電子回路部品が統合されており、なおかつ、そのまま燃やせる回路基板を開発することにしました。
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紙製の「燃やせる」回路基板が開発される
研究チームは、紙製の回路基板を新しく設計しました。
まず蝋を使って反転した回路を紙の上に印刷。
この紙をオーブンで熱すると、蝋が紙に染み込んでいきます。
その後、紙に半導電性インクと導電性インクを塗布すると、蝋が染み込んでいない領域だけにインクが染み込み回路が形成されます。
その上に導電性の金属部品を印刷。さらに上からゲル状の電解質を塗布して完成させました。
実験では、抵抗器やコンデンサ、トランジスタが搭載された新しい回路基板がテストされ、正しく機能することが確認されました。
この回路基板は、抵抗器などの部品を搭載した後でも薄くて柔軟性があり、「まるで紙のよう」でした。
また回路基板だけの状態で火をつけると、回路ごとすぐに燃えて灰になることも確認できました。
研究チームは、この紙の回路基板は分解されやすいため、不要になったら「そのまま放置して劣化させることも可能」だと述べています。
もちろん、この安価で燃やせる回路基板を搭載したとしても、現段階では電子機器をそのまま燃やしたり捨てたりはできません。
それでも他の部品も同様に環境に優しいものへと変換していくことで、将来的には完全に使い捨て可能な小型電子機器を開発できるかもしれません。
研究チームの次の課題は、生分解性のない金属を生分解性のあるものに置き換えることだと語ります。
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