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【AERAdot】「アマゾン薬局」日本上陸すれば既存薬局に大打撃 「ネットで完結」便利さの裏に生じるリスク〈dot.〉/2022.10.23

【AERAdot】

2022.10.23

あのアマゾンが処方薬の販売事業参入を検討している――9月5日夜、日本経済新聞がそう報じると、調剤薬局業界に激震が走った。翌日、業界最大手のアインホールディングスを始め、上場している調剤薬局各社の株価はほぼ全面安となった。米アマゾン・ドット・コムが日本での調剤薬局事業に参入するのは2023年1月から始まる電子処方箋(せん)の導入に合わせたものとみられるが、業界関係者たちの声は重苦しい。ある大手調剤薬局に話を聞こうとしたところ、「取材に協力できることは何もありません」と、けんもほろろに断られた。電子処方箋を利用すれば薬の受け取りはインターネット上で完結する。アマゾンのオンライン販売の優位性は誰もが知るところだ。アマゾンの参入によって、私たちの医療がどう変わるのか、取材した。

【写真】編集部が入手したアマゾン薬剤師の募集要項

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「アマゾン薬局」のオープンに向けて、着々と準備を進めているのか。

AERA dot.はアマゾンの薬剤師募集の情報を入手した。そこには、こう書かれている。

<アマゾンで医薬品販売するために医薬品専用物流センター(大阪)において、医薬品販売するために必要な、お客様への情報提供、適正販売の判断、薬機法遵守した販売のサポート等をおこなっていただく業務となります>(かっこは筆者付記。「薬機法」とは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)

アマゾン薬剤師募集の知らせ(撮影/米倉昭仁)

アマゾン薬剤師募集の知らせ(撮影/米倉昭仁)

月額基本給は46万2500円以上。これには月70時間の時間外労働手当に相当する金額などが含まれているが、「仮にこれがアマゾン薬局開始に向けての条件だとすれば、かなりいいと思います。都会の薬局に勤務している薬剤師であれば、応募する人はそれなりにいると思います」(業界関係者)。

■オンライン薬局を体験

すでに米国では2年前にオンライン薬局「アマゾンファーマシー」が立ち上がり、処方薬のデリバリーサービスを行っている。プライム会員は送料無料。24時間年中無休で薬剤師が患者の相談に応じる。さらに自動音声認識AI「アレクサ」が薬の管理を支援する。そんなノウハウを持ったアマゾン薬局がもうすぐ日本にやってくる――。調剤薬局業界にとっては、まさに黒船到来だろう。

実は、オンラインによる処方薬の配送サービスは2年前から大手調剤薬局チェーンを中心に国内でも始まっている。その一つが日本調剤のオンライン服薬指導・薬局サービス「NiCOMS(ニコムス)」だ。

それはどんなサービスなのか? 体験してみることにした。

日本調剤のニコムス予約画面(撮影/米倉昭仁)

日本調剤のニコムス予約画面(撮影/米倉昭仁)

まず、スマホで日本調剤のホームページにアクセスし、NiCOMSに名前や生年月日、住所などの利用者情報を入力する。さらに健康保険証とクレジットカードを登録。これで準備完了だ。

筆者はかかりつけ医が発行した処方箋を手に、日本調剤・旗の台薬局(品川区)を訪ねた。受付に処方箋を出す際「オンラインでお願いします」と告げる。手続きはたったそれだけだ。

処方された薬についての説明(服薬指導)はあらかじめ予約した時間にスマホで受けられる。NiCOMSを開くと、画面に薬剤師の姿が現れた。「本日、担当する◯◯と申します。よろしくお願いいたします」。薬について丁寧な説明がされるほか、質問も自由にできる。最後に「お支払い」アイコンをタップしてクレジットカードで支払った(代引きも可能)。料金は薬代プラス送料(300円)。処方薬は翌朝、宅配便で自宅に届けられた。実にスムーズである。

■今は患者全体の3~5%

旗の台薬局を訪ねた際、オンラインサービスについて、患者からどんな声がよせられているのか、羽鳥良主任に聞いた。

「オンラインを希望される患者様にはさまざまな理由がありますが、『時間』と『場所』の制約がなくなるという、大きな二つのメリットがあります。例えば、『一包化(複数の薬を1袋ずつパックすること)』には結構時間がかかりますが、オンラインの服薬指導であれば、待ち時間が必要なくなります。さらに小児患者のお母様も薬局で待つのは大変です。帰りの新幹線や飛行機の時間を気にされる患者様もいます」

旗の台薬局は昭和大学病院の前にある、いわゆる「門前薬局」で、全国各地から患者が訪れる。

意外だったのは、周囲を気にせずに相談できるメリットだ。

「店頭だと『混んでいるから早くしなければ』とか、周囲の目を気にしてしまい、じっくりと相談できないけれど、オンラインなら自宅でリラックスして話ができる、という声をかなりうかがっています」

この店舗では、オンライン服薬指導を利用する患者は全体の3~5%だが、若者から高齢者まで幅広い層が利用しているという。「最初にNiCOMSの使い方をしっかりと説明すると、次回からは高齢者の方でもすんなりと使われています」。

すでにNiCOMSの運用開始から約2年が経過し、薬剤師はオンラインでの会話に十分に慣れたため、画面に映る患者に合わせて阿吽(あうん)の呼吸で話せるようになったという。

これまで患者は処方薬を購入する際、紙の処方箋を薬局に提出する必要があったが、来年1月からは電子処方箋の制度がスタートする。これをオンライン服薬指導と組み合わせれば、患者は処方箋の引き換え番号をスマホや電話で薬局に伝えるだけで、好きな場所で処方薬を受け取れるようになる。

アマゾンはこれを機に処方薬の販売事業への参入を目指しているわけだが、それが刺激となってオンライン薬局が普及し、同業者間の競争は激しくなっていくだろう。

■都会の薬局との大きな違い

一方、地方の薬剤師はインターネットによる処方薬の販売について、どう考えているのか、長野県諏訪市で「ららくま薬局」を営む薬剤師・熊谷信さんに聞くと、都会の薬局とは大きく異なる事情が見えてきた。

ららくま薬局の薬剤師・熊谷信さん

ららくま薬局の薬剤師・熊谷信さん

まず、熊谷さんはアマゾンの参入について、「薬剤師の間ではポジティブな反応は薄いですね」と言う。その理由として「自分たちの仕事が奪われてしまうかもしれない、という心配が大きい」と漏らす。

「オンライン薬局が増えることで、利用者が奪われ、既存の薬局は立ち行かなくなるところが出てくるでしょう。現在約6万ある薬局は数を減らしていくと予想されます」

その影響が特に大きいと思われるのが地方だ。というのも、熊谷さんはあくまで肌感覚だが「地方にはインターネットに不慣れな人が多い」と言い、こう続ける。

「例えば、うちの薬局では処方箋をスマホで撮影して送ってもらい、それをもとに薬を用意する、というアプリを導入しています。ところが、それを高齢の患者さんに勧めても『うーん、いらない』という人が多い。なので、今後、電子処方箋が導入されてもそれを使いこなせるかというと、なかなか難しいでしょう。要するに、アマゾンがオンライン薬局を展開するようになっても、ネット弱者の患者さんたちが取り残されないようにすることが必要だと思います」

 アマゾン薬局が米国と同様に「プライム会員は送料無料」といったサービスを打ち出せば、便利さだけでなく、安さに引かれる患者は多いだろう。

「薬剤師の24時間年中無休対応も患者さんにとっては大きなメリットです。でも、中小の薬局ではそのようなサービスはなかなか成り立たないでしょう」

■薬局はコミュニティー

一方、熊谷さんは、薬剤師は患者に対して単に薬についての説明を行い、薬を渡すだけの存在ではない、と訴え、こう続ける。

「医師が発行した処方箋はすべてが正しいわけでありません」

どういうことか。

「薬剤師は医師とは異なる視点で薬を監査して、患者さんを守ります。例えば、薬の飲み合わせが悪い、体質に合わない、ということが実際に起こってくる。そこで薬剤師が処方箋の内容について医師に問い合わせる『疑義照会』を行う。もちろん、アマゾンにはそれができない、とは思いません。しかし、普段から患者さんと顔を合わせている関係であったほうがそれをやりやすいのは確かだと思います」

ららくま薬局

ららくま薬局 これまで、ららくま薬局は諏訪地域のコミュニティーの一角を担ってきた、という自負が熊谷さんにはある。

「私の薬局では新型コロナの抗原検査も行っていますが、市内にある会社の社長さんから『うちの従業員が心配だから、検査を受けさせてもらえないだろうか』と、相談を受けることもありました。薬剤師の仕事とは直接の関係はありませんが、薬局にはそういった存在意義が確実にあります。それはオンライン薬局ではなし得ないでしょう」

新型コロナ対策のワクチン接種では海外の製薬メーカーのワクチンが頼りだった。

「ワクチン接種ではこれら製薬メーカー本社のある一部の先進国が先行しました。しかし、国産ワクチンがない状況では、それを受け入れざるを得ませんでした。アマゾン薬局の参入について、否定はしません。しかし、処方薬の多くをアマゾンに頼るような状況が生じてしまうと、それがリスクになりかねないと思います。アマゾン薬局とは別の選択肢も選べるような環境を維持していくことが必要でしょう」

■薬の購入は「命」に直結

近い将来、アマゾン薬局が浸透すれば、前述のようにリアル店舗型の調剤薬局は苦境に立たされるケースがあるだろう。もちろん、薬局の省力化や効率化は大切だが、その一方で、薬の購入は患者の命や健康に直結する。調剤薬局が減ったあと、アマゾン薬局の収益が予測を下まわり、撤退するような事態となれば「不便」ではすまない状況となる。薬局は地域のインフラであり、失われることの代償はあまりに大きいと知っておくべきだろう。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)


 

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