【毎日新聞】
2022/11/21
人口減少に伴う利用者減に加え、長引くコロナ禍や燃料価格の高騰などの影響で苦境にあえぐ地方の公共交通機関が、発想の転換で乗客数を飛躍的に伸ばした。山形県鶴岡市の庄内交通は今年10月、あえて市中心部を循環する路線バスの運行便数を4倍に増やし、バス停を20カ所以上も新設した。商機は地域の実態に合った「利便性の向上」にあった。【長南里香】
減便や路線縮小に動く交通機関もある中、庄内交通は「地域の活性化の第一歩は利便性を高めることが重要だ」という考えに立ち返り、打って出る戦略に懸けた。3路線のバスを12人乗りのワゴン車に小型化する一方、12便から48便に増便。バス停も300メートル間隔を基準に58カ所から79カ所に増やした。
小回りがきくワゴン車が狭い路地を抜け、高齢者世帯が暮らす中心市街地を循環するようにしたところ、通院や買い物の利用が増え、一定の観光需要もあったという。戸別訪問による需要開拓も功を奏し、約1カ月で乗客数は前年同期比3倍の約4500人に急増した。
同社も赤字収支に陥り、減便を重ねて縮小の一途だったという。要因を探り従来の運行形態を見直すと、業界の都合優先で利用者目線が脇に追いやられていた。そこで、高齢者が日常的に利用でき、一日の予定が立てやすいよう1時間に1便の運行頻度を確保し、ホテルなど関連会社と連携した割引制度も導入した。
庄内交通を子会社とする庄交コーポレーションの国井英夫社長は「知恵を絞って交通弱者の生活が不便にならないインフラ提供ができた」と手応えを感じている。
路線圏内に暮らす65歳以上は3万人で、マイカー利用からの移行も期待できる。同社は1カ月1万人の利用を目標に黒字化を目指す。地域密着の営業強化で降雪期に向けて利用者をさらに掘り起こし、地域の活性化にもつなげる考えだ。