【備後とことこ】
2022.12.13
2022年11月12日(土)、福山市立大学の大学祭である「港輝祭(こうきさい)」が、3年ぶりに一般公開となりました。
今回の目玉イベントのひとつが「福山市立大学アイディアピッチvol.1」です。
第一部では8組の学生による新たなビジネスプランのピッチ(短いプレゼンテーション)が、第二部では7人のパネリストによるディスカッションが行われました。
学生たちのアイディアを、福山を代表するパネリストや一般の大人たちはどのように受け止めたのでしょうか。
イベントのようすをレポートします。
目次
第一部 アイディアピッチ
8組の学生たちが登壇し、ビジネスアイディアや企業とタイアップした活動などについて発表しました。
部活やサークルと地域の指導者をマッチング
最初のビジネスプランは、玉井研究室の西濱琴音(にしはま ことね)さんと平之内唯斗(ひらのうち ゆいと)さんによる「スター発掘Office ~最高の指導者と出会おう~」です。
中学生や高校生にとって大きな学びの場である部活動や、大学生にとっても充実の時間となるサークル活動。
文部科学省などが進める「部活動改革」によって、2023年度からは指導者を学校の教員から地域のスポーツクラブなどに移行していく方針です。
指導をしたい人と指導者を求める人の間をつなぎ、両者の「探す」「調整する」ための負担を軽減しようとするのがこのプラン。
制作中のアプリには、次の4つのサービスを盛り込んでいます。
- 顧問マッチング…チャットで練習日時を相談できる
- スクール検索…分野ごとにスクールから指導者を見つけられる
- 宣伝投稿…スクールの紹介やイベントのお知らせなど
- オンラインレッスン…学校や個人から講師にオンライン指導を申請できる
教員は過剰労働から開放され、生徒たちは専門的な指導を受けられ、また講師側は指導範囲が拡大できる、三者にメリットのあるアイディアでした。
デニム×鞆の浦、4泊5日ワーケーション
次は牧田研究室の学生による「鞆の浦&デニム デザイナーinレジデンス・プログラム」です。
近年注目を集めている新しい旅の形が、仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を掛け合わせた「ワーケーション」。
全国一のデニム生産量を誇る福山にデザイナーを呼び込むため、鞆のまちとデニムとを組み合わせた、4泊5日のワーケーションプランを発表しました。
鞆町は豊かな自然と文化財の多く残る美しいまちですが、住む人の半数が高齢者です。
しかし、のどかな暮らしに憧れる若者や人とのつながりを求める人、クリエイターにとっては、大きな魅力を秘めているまちでもあります。
宿泊施設「燧冶(ひうちや)」や「NIPPONIA 鞆 港町」、鞆への移住者である江竜陽子(えりゅう ようこ)さんと連携してできたワーケーションプランには、次のような鞆町とデニムを楽しむイベントがたっぷりと盛り込まれました。
- 釣り
- ロケ地巡り
- デニム作り体験
- ワークショップ
- デニムの商品化提案会 など
会場からは、「とても夢がある」「ぜひ継続的な実現に向けて動いてほしい」など、熱いエールが送られました。
食品ロス×学生=食べるボランティア
続いて、玉井研究室の高橋美由(たかはし みゆ)さんの「FOOD PEACE -食べるボランティア- 食品ロス削減と偏見のない社会構築」。
まだ十分食べられるのに廃棄しなければならない食品を、大学生に食べてもらおうとするアイディアです。
廃棄食品の受け入れ先のひとつに、フードバンクがあります。
しかし、フードバンクは受け入れ量が限界に近づいていて、パンク状態にあるそうです。
また、フードバンクから食べ物を提供されるのは「生活困窮者」である、というイメージから受け取りを迷う人もいます。
生活困窮者ではなく「ボランティア」を募って廃棄されてしまう食品を受け取ってもらおう、というのが今回のアイディアの柱です。
綿密な事業計画を元に学内で試験的に実施した結果、用意した70人分を1時間で配布したとのこと。
学生たちの、SDGsや食品ロスへの関心の高さがうかがえる実証結果でした。
- 企業が食品を寄贈する
- 企業広告とともに学生に食品を無料配布する
- 複数回参加した学生は、企業へのインターンシップやイベントに優先的に参加できる
- 企業側は食品廃棄の手間と費用を減らせ、人材確保の機会を得られる
企業と学生の両者にメリットがある学生ならではのアイディアに、会場からは「その視点はなかった。企業も学生も助かる」と称賛の声があがりました。
キャンプまるごとサポートサービス
玉井研究室の藤原綾太(ふじわら りょうた)さんによる「キャンプギア」は、キャンプ初心者の不安材料をすべてサポートし、キャンプのきっかけを提供するビジネスプランです。
新型コロナウイルス感染症の影響で、全世代でキャンプ熱が高まっています。
しかし若い世代や初心者には、道具をそろえる費用がかかる、キャンプ場へ行く交通手段がない、などがハードルです。
そこで、以下をすべてサポートするサービスを提案しました。
- キャンプ用品の貸し出し、運搬
- テント設営サポート
- キャンプ地の紹介、送迎
- キャンプマナー講習
学生視点のアイディアに、会場からは「さらに設定金額を抑える工夫があると多くの人に使ってもらえそう」との声が出ました。
資格取得のための勉強をアプリで管理
次のプランは、玉井研究室の山田彩華(やまだ あやか)さんの「Study Share(スタディシェア)」。
学生のうちにTOEICや簿記などの資格を取り、就職に活かしたいと考える人は多いですが、独学で学ぶにはモチベーションの維持が課題となります。
すでに中高生の3人に1人が学習管理にアプリを活用している現状を踏まえ、大学生の資格取得にも、学習管理アプリを活用しようというのが今回の提案です。
- 資格や教材ごとに想定学習時間を調整
- 一人ひとりにあった学習計画を立案
- オンライン自習室で仲間と一緒に学習
これらによってやる気を保ち、学習を継続しやすくします。
市販の教材とアプリを組み合わせることで、資格取得にかかる金銭的・地域的な格差をなくしたい、との思いに会場からは大きな拍手が送られました。
山野町を元気にしたい!
続いて岡辺研究室の楠原義晃(くすはら よしあき)さんが「山野古民家と暮らし研究会(DOFY)による活動報告」を行いました。
福山市北部にある山野町と福山市立大学のつながりは、2018年総務省の「関係人口創生事業」によって始まり、今も緩やかに続いています。
DOFYのメンバーは、山野町での交流から未来へ続く希望を見つけようと、次のような活動をしてきました。
- 築100年超の古民家改修:建築廃材を使った耐震シェルター作成、床の水平化
- 別の民家の屋根を改修:空き家問題解消への取り組み
- 高大連携:福山市立高校の生徒さんと一緒に山野町でそばを育て、できたそばを山野町プチフェスで提供
- 地域イベント:おやまのいろどり市参加
別の地域のイベントに参加し、そこで得た発見を山野町に持ち帰る試みも始めています。
落とし物をしても安心できる社会を!
玉井研究室の後神未来(ごかん みき)さん、新谷莉央(しんたに りお)さんのビジネスプラン「おとしものkokoda」は、落とし物の落とし主と拾い主を速やかにマッチングするサービスです。
現在、落とし物の対応はお店ごとに異なっていて、落とし主が落とし物を探しだすのは簡単ではありません。
一方で、拾い主や落とし物があった施設にとっても、落とし物の管理は手間がかかっており、落とし物の8割が返却されずに処分されています。
今回のプランでは、拾い主は落とし物の写真を撮って情報を発信するだけ。
落とし主は、落とし物情報を閲覧して、自分の落としたものを探し出すのです。
落とし主も拾い主も、落とし物に手間や時間を使わずにすみ、豊かな気持ちで過ごせる地域になるようにとの思いがこめられました。
本人確認のために運転免許証登録を行うなど、ていねいに組み立てられたプランでした。
ばらの香りの除菌液を企業コラボレーションで企画・販売
最後は学生ばらのまち推進委員会の亀山喜一(かめやま きいち)さんによる実践報告「企業と連携したばらの香りの除菌液『香福(こうふく)』の企画・販売」です。
「学生ばらのまち推進委員会」は、これまで福山市役所の依頼を受けて「ローズマインド」を福山市内外の人に広める活動に取り組んできました。
しかし、新型コロナウイルス感染症の広がりにより、対面のイベントがすべて中止に。
自分たちにできる活動はないかと考えて企画したのが「香福」でした。
福山シティFCとも連携し、NCTフロンティア株式会社との協同で除菌液を開発、ボトルデザインにも取り組みました。
肌荒れにも配慮した除菌液は、ふわりとしたやさしいばらの香りで、心地よい使用感です。
ラッピングも学生たちみずから行い、現在天満屋福山店で販売しています。
「ばらの幸せな香りを楽しめる素晴らしい商品!」と、会場は大いに盛り上がりました。
第二部 パネルディスカッション
続いて、福山市立大学 都市経営学部 渡邉一成(わたなべ かずなり)学部長の進行のもと、7人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。
まずは一人ずつ、自己紹介と第一部の感想を話してもらいました。
最初は一般社団法人ふくやま社中 代表理事の小林史明(こばやし ふみあき)さん。
「ふくやま社中では、地域の課題を解決しようとしています。
今日のアイディアを今後ぜひ、皆さんと一緒に実現してみたいですね」
続いては、有限会社親和 取締役で燧冶の管理人でもある羽田知世(はだ ともよ)さん。
「学生さんたちがアプリを作ったり、行政や企業と連携しながら活動したりしていることに驚きました。
学生の皆さんと、私たち企業とで何か一緒にやれたらいいなと思います」
株式会社山陽管理 代表取締役の角田千鶴(つのだ ちづる)さん。
「2014年から起業家支援や学生のサポートをしていて、さまざまなビジネスプランを見てきています。
こうやってプランを企業に持って行くとどんな反応があるのか、社会に出すとどんな反応があるのか、ぜひ社会とつながってリアルな反応を見るまでやってください。それが深い学びになります」
寺田鉄工所株式会社 代表取締役の寺田雅一(てらだ まさかず)さん。
「当社では、酸性雨やCO2(二酸化炭素)の問題といった『社会課題』の解決に取り組んでいます。
今日の発表は、企業側からは見えづらい『社会課題』あるいは『地域課題』に、学生の視点から切り込んでいて非常に興味深かったですね。
今後、多くの企業と多くの学生が、こうしてふれあっていけるとおもしろいと感じました」
一般社団法人グローカル人材ネットワーク 代表理事の尾本勝昭(おもと かつあき)さん。
「外国人留学生の起業を中心としたライフプラン支援をしています。
今日は日本人学生が起業の精神にあふれていることに勇気をもらいました」
福山市立大学都市経営学部の牧田幸文(まきた ゆきふみ)准教授。
「これからも学生の思いを大切に指導していきたいです。
高齢者ケアの研究をしていますが、高齢者ケアは人をつなげる活動でもあります。
高齢化し人が少なくなった町をどう作っていくのか、鞆町や山野町を見ていきたいですね」
同じく都市経営学部の八幡浩二(やはた こうじ)教授。
「こういう場でプレゼンをするのはすごい経験です。大変立派でした。
次はぜひ、実現に向けて進めてほしいと思います」
次に、「大学学生と地域とが継続的なつながりを持っていくためには?」のテーマでディスカッションが進みました。
- 大学・企業・自治体が一体となって新しい地域づくりをしていくことが重要。
- 企業が取り組んでいるさまざまな課題解決のアイディアを、学生と考える場があるとよい。
- 学生のアイディアは企業にとって宝物。企業や地域と学生が単発でつながるのではなく、横のつながりや事業の引き継ぎといった縦のつながりを考えていってほしい。
- 地域と学生が継続的に関われるコミュニティを、再現性を持って作り続けられるかがポイント。
- 福山市立大学の教授たちにはぜひハブ人材となってもらい、学生や地域をつなげていってほしい。
といった意見が交わされました。
最後は「学生へのエール」です。
- 食品ロスに対する発想が、企業と学生とではまったく違うことが印象に残った。人と人のつながりで社会課題を解決する、素晴らしいアイディアだ。
- SDGsでビジネスを考えているのは素晴らしいが、持続するには収益性も重要。稼いで税金を払い、社会に貢献するところまで考えていってほしい。
- 高齢化が進む地域に学生が来てくれると町の活力につながる。
- ぜひ、今日のメンバーと意見交換をさせてほしい。いろいろと一緒にやれることがある。学生の今だからできることをどんどんやってほしい。我々は全力でサポートする。
渡邉学部長は、次のように締めくくりました。
「今日のキーワードは『つながる』ですね。大学と地域、企業とのつながり続ける方法を考えていく必要があります」
つなげる、つながる
大学生のアイディアに、地域を代表する大人たちが熱いエールを送った今回のイベント。
企業や地域と学生のつながりによって、地域の暮らしがおもしろくなり、元気になる。
そんな未来を感じました。