【number】
2023/03/18
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
JIJI PRESS
「日本で投げる最後の登板になるかもしれない」
そう公言して立った準々決勝・イタリア戦のマウンド。2イニング目の8回1死一塁で最後の打者をセカンドゴロ併殺に打ち取ったダルビッシュ有は、万感の思いを噛み締めるでもなく、すぐに一塁側ベンチ裏のブルペンに向かった。
「正直、余韻に浸る余裕がなくて……。2イニングで球数もそんなに多くなかったですし、ブルペンでどのくらい投げなくてはいけないのか、時間はあるのかな、っていう部分で切羽詰まっていましたね」
所属するパドレスの開幕は日本時間31日のロッキーズ戦に迫っている。1年間、先発ローテーションの柱として期待されているダルビッシュは、自身の新シーズンのスタートに向けて、東京ドームのマウンドで投じた27球に加え、「+3イニング」を想定した球数をブルペンで投げ込んでいた。
「みんなの明るい顔が見たい」
9回、クローザーの大勢が最後のイニングを締め、9-3と快勝を喜ぶハイタッチの儀式が始まると、36歳の右腕はブルペンから駆けつけその列に加わった。5大会連続となる日本代表のベスト4進出という結果以上に嬉しかったのは、ロッカールームで目にした若い選手たちの笑顔の輪だった。
「アメリカの地を踏んだことがない選手もいっぱいいる。試合が終わった後、みんながアメリカに行けるのが嬉しい、って言っていたので、日本にいる時以上にみんなの明るい顔が見たいなと思っています」
そう話すダルビッシュは、穏やかな笑顔を浮かべていた。
メジャー組でただ一人参加した宮崎合宿初日からちょうど1ヶ月。ダルビッシュはいつも、投手陣のリーダーであり続けた。ピッチングで手本を示し、その技術を余すところなく伝え、寝食を共にする中でコミュニケーションを重ねてきた。若い選手たちの前で、そしてマスコミの前で雄弁に語ってきた言葉の中で、終始一貫して伝えていたのが「野球を楽しむ」ということだ。
「野球ぐらい…」の真意
印象的なコメントがある。それは1次ラウンド最終戦、オーストラリアとの試合を終えた後のミックスゾーンでの受け答えだ。攻撃陣では結果が出ている選手と、不調の選手と、明暗が分かれているが……という問いに、間髪入れず答えた。