京都市東山区に、90年前の小学校を改装した「ザ・ホテル青龍 京都清水」という特徴的なホテルがある。開業から2年で、10回リピートする人もいるほど人気だという。観光客を惹き付け、地元の人の誇りにもなっているというこの施設はどのように誕生したのか。日経トレンディ元編集長の能勢剛さんが関係者に取材した――。

※本稿は、能勢剛『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』(日経BPコンサルティング)の一部を再編集したものです。

「ザ・ホテル青龍 京都清水」の外観

撮影=永禮賢
「ザ・ホテル青龍 京都清水」の外観

世界中から観光客が訪れる空間になりつつある

――いま、京都で最も人気があるルーフトップバー「K36 The Bar & Rooftop」。CMのロケ地としても人気が高く、テレビで見覚えがある人も多いだろう。このバーがあるのは、90年前の小学校を改装したホテル「ザ・ホテル青龍 京都清水」の屋上。ヘリテージホテルとして京都の持つ歴史の厚みを感じさせながら、極上の快適さを提供するラグジュアリーホテルでもある。古くて新しい京都の顔として、日本はもちろん、世界中から観光客が訪れる空間になりつつある。

こうした、新しい時代に向けて、人々に新しい価値を提供する空間は、いかにして企画され、どのようにつくられているのか。

その背景に迫った書籍が『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』。テーマパーク、ミュージアム、図書館、野球場、商業施設、オフィスなど、筆者は全国13カ所の施設を訪れ、最先端の空間づくりを取材した。実は、この本を著すきっかけになったのが、乃村工藝社が手がけた「ザ・ホテル青龍 京都清水」だった。その内容を一部抜粋してお届けする。

観光客が行き交う清水坂の小学校

京都・東山。

青空の下、オープンエアのルーフトップバーに座ると、市街地から三方を取り囲む山々まで、京都盆地を一望する大パノラマが広がる。あちらこちらに寺院の伽藍がらんが遠望でき、すぐ目の前では、京都のシンボルのひとつである法観寺「八坂の塔」が存在感を放つ。

夕暮れともなれば、夜空に浮かび上がる八坂の塔と市街地の夜景とが競演。きらびやかだけど風情ある古都の顔が現れる。ひっそりとした上質なバーがたくさんある京都にあって、ここほど京都ならではの解放感にあふれた心地いい空間はちょっと見当たらない。

このルーフトップバー「K36 The Bar & Rooftop」があるのは、「ザ・ホテル青龍 京都清水」の屋上。清水寺へと続く清水坂の途中にあるホテルだ。そしてこのホテルは、元京都市立清水小学校の校舎を改装したホテルとして、京都市民にはよく知られた存在だという。

京都市は、統廃合によって空いた学校跡地の再開発を進めてきた。2015年から事業者の募集が始まり、その第1号として公募されたのが清水小学校の跡地だった。

清水小学校は1869年(明治2年)に開校し、1933年(昭和8年)に現在の場所に移転。その際に伝統的な和風の木造校舎ではなく、スパニッシュ瓦にアーチ窓のモダンな鉄筋コンクリート校舎となり、90年近くもの間、地域のシンボルとして親しまれてきた。周辺住民には卒業生も多い。