(本記事は、安達 裕哉氏の著書『頭のいい人が話す前に考えていること』=ダイヤモンド社、2023年4月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

クレーム対応がうまい人の特徴

〝クレーム対応で仕事ができるかどうかがわかる〞
と唱える人がいますが、私の知人もそのひとりです。

彼は、家具店で正社員として働いていましたが、クレーム対応は直接売上につながるわけではないので、避ける人も多かったといいます。だからこそクレーム対応のうまい人がアルバイトからも、上司からも信頼が厚く、出世していくのだそうです。

ある日、閉店間際に電話がかかってきました。

「食器棚がさっき届いたが、引き出しの底に小さな傷がついている、今すぐ交換しにこい!」

相当お怒りのようです。聞くところによると、配送員の態度も悪かったそうです。

しかし、食器棚の在庫を調べてみると今すぐ用意できるものがなく、取り寄せるのに4日ほどかかってしまいます。その旨をお客さんに伝えると

「ふざけるな! 今すぐもってこい!」

激昂げきこうしました。とはいっても、商品がないので持っていきようがありません。

ここで、クレーム対応が苦手な人は〝できないものはできない〞と相手を説得しようとします。すると、相手と対立することになり、話がこじれてしまいます。

でも彼は説得するのではなく、お客さんの話を丁寧に聞きました。するとこんな話になりました。

「明日はお仕事でしょうか?」

「いや、明日から3連休だ。家族で旅行に行くんだ。子どもたちも楽しみにしてる。だから早くもってこい!」

「なるほど、それで今日……。」

「古い食器棚から家族5人分すべての食器を出して待ってたんだ。」

お客さんが、なぜこれほど怒っていたのか、彼はやっと理解しました。

食器棚に傷がついたことに怒っていたのではなく、配送員の態度に怒っていたのでもなく、食器棚を新しくして、スッキリした気持ちで明日から家族で旅行に行こうと思っていた、その気持ちを削がれたことに怒っていたのです。

これが、お客さんの抱える本質的な課題でした。

でも、食器棚の在庫がないことは事実です。

そこで彼は、隣の店舗で、できるだけ状態のいい展示品の引き出しを確保してもらい、その状態のいい引き出しと、あるものを買ってお客さんの家に向かいました。

では、ここで問題です。

【問題3】彼が怒っているお客さんの家に、引き出しとともに持っていったものとは?

さあ、みなさんならどうしますか?

正解は、子どもが好きなキャラクターのお菓子やゼリーのセットでした。

そして、こう言いました。

できるだけ状態のいい引き出しを他店舗から持ってきました。展示品ではありますが、新品も最短で取り寄せる手配をしております。こちら、もしよろしければ、道中の車の中で召し上がってください。

彼は、スッキリした気持ちで旅行に行きたかった、というお客さんの気持ちを汲み取り、より楽しい旅行ができるように、お菓子を渡したのです。

するとお客さんは、ケロッとして、ありがとうと言い、結局、後日新品の引き出しと交換することなく、展示品のままで納得してくれたそうです。

勝ち負けは気にしない

彼がそこで、今すぐ商品をお持ちできない理由を論理的に説明していたら、どうなっていたでしょう。お客さんは納得するどころか、より怒っていたでしょう。

頭のいい人は、議論の勝ち負けではなく、議論の奥にある、本質的な課題を見極めようとします

議論になるのは、その人の根底に何か想いがあるからです。

彼は、食器棚の傷に怒るお客さんの根底にある、〝スッキリとした気持ちで旅行に行きたい〞という気持ちに気づき、その課題を解決するために、奔走しました。

結果的に、新品を取り寄せずにすんだのですから、お菓子代はかかったものの、コストは安くすみました。対応を誤り、お客さんを激昂させていたら、そのお客さんは一生お店に来てくれない可能性もあるので、長期的に考えると、お菓子代だけで会社に利益をもたらしたことになります。

ちゃんと考えて話すというのは、〝相手の言っていることから、その奥に潜む想いを想像して話す〞ということでもあります。そしてそれは、学校的知性ではなく社会的知性がもたらすものなのです。

頭のいい人が話す前に考えていること

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。 Twitter:@Books_Apps

※画像をクリックするとAmazonに飛びます