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【楽待】民法改正で新設の「隣地使用権」「ライフライン設置権」、弁護士が解説!/2023.8.26

【楽待】

2023.8.26

不動産所有者の間で、トラブルになりやすい近隣との関係。当事者間で話し合っても解決できず、訴訟に発展することも少なくありません。

今年4月1日から施行された改正民法では、そんな隣人との関係、すなわち「相隣関係」についての扱いが見直されました。

主な改正点は、工事などの場合に隣地を使用できる「隣地使用権」の新設、電気・ガスなどを引き込むために他人の土地を使用できる「ライフライン設置権」の新設、そして越境してきた枝の切除が可能になったことの3つです。

今回の記事では、「隣地使用権」と「ライフライン設置権」について説明します。残る1つの越境枝の問題については以前の記事で紹介していますので、そちらも併せてご覧ください。

「隣地使用権」とは

隣地との境界付近で塀や外壁などの工事をする際、どうしても境界を越えて隣地に立ち入らざるを得ない場合があると思います。

このような場合、改正前の民法では隣地の使用を「請求することができる」(請求権)と定められていました。そのため、相手が請求に応じない場合には裁判を起こし、判決によって隣地の使用を認めてもらうしかありませんでした。

また、隣地所有者が不明の場合にはそもそも請求をすることが困難です。こうした状況が、土地の利用・処分を阻害していると問題視されていました。

そこで、改正法では、一定の場合に「隣地を使用することができる」と改められ、使用権について明言されました。

209条1項によれば、隣地を使用できるのは次の3つの場合です。

(1)境界またはその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去または修繕
(2)境界標の調査または境界に関する測量
(3)233条3項による越境してきた枝の切取り

もっとも、上記の目的のためであっても、立ち入ることができるのはあくまでその「必要の範囲内」に限られています。

また、上記の要件を満たし使用権を有する場合であっても、隣地を使用する日時・場所・方法は、隣地側の損害が最も少ないものでなければなりません。

例えば、境界に関する測量のために、隣地の一部に踏み入れ、通行する必要性があるとしましょう。この場合、自分の土地から測量を実施しているところまでの通行は認められますが、必要以上に隣地を歩き回るようなことは認められません。

また、たとえ手間が余計にかかるとしても、隣家の塀などを壊さずに調査などができるのであればそのような方法によらなければなりません。

209条3項には、隣地を使用するためには事前にその目的・日時・場所・方法を隣地の所有者および使用者に通知しなければならないと定められています。実務上は、これらを記載した書面を事前に送付することになるでしょう。おおむね2週間~1カ月前程度で十分かと思われます。

ただし、事前に通知するのが困難な場合には、事後の通知でも良いとされています。土地の所有者が不明な場合もこれに該当し、隣地を使用することができるようになりました。この場合は、所有者が判明した時点で送付すればよいとされています。すなわち、所有者がわからないまま永久に通知されないこともあり得るということです。

「ライフライン設置権」とは

そして同様に、新しく明文化された権利として「ライフライン設置権」があります。

住居やオフィス、店舗などの人が利用する建物には、電気、ガス、水道のほか、電話やインターネットなど、いわゆるライフラインが必須です。土地の位置関係によっては、これらを引き込む際に他人の土地を通らなければならないケースもあるでしょう。

しかし従来は、このような場合に他人の土地を使用する方法について、直接の規定がありませんでした。裁判で争われた際には、他の規定を適用するなどして対応してきたのですが、使用に関するルールが明確でない点が問題視されていました。

そこで、今回の民法の改正では、「継続的給付を受けるための設備の設置権」、いわゆる「ライフライン設置権」が明文化されました。

これにより、他人の土地に設備(導管やケーブルなど)を設置することができるとされました。また、他人が所有する設備を使用しなければ電気やガスなどの供給を受けることができない場合も、必要な範囲内で他人の設備を使用することができると定められています。

PHOTO:Mochio / PIXTA

例えば、公道から導管や引込線を自分の建物に通す際に、他人の土地を通過するような場合です。所有する土地が公道に接しておらず、他人の土地を通らなければこれらの供給を受けられないケースが典型的ですね。もっとも、その場所・方法はその土地にとって最も損害が少ないものでなければなりません。

また、設備の設置などに際しては、事前にその目的、場所および方法を、土地の所有者および使用者に通知する必要があります。前述の「隣地使用権」の場合と異なり、事後の通知は認められません。所有者が不明の場合には、通知(相手への意思表示)をしたものと同じ扱いにさせるため、「公示送達」という手続きを裁判所に対して行う必要があります。

なお、実際に設置の工事をする際は、必然的にその土地に立ち入る事になりますが、この立ち入りについては前述の隣地使用権が認められます。したがって、設置工事のために立ち入る旨についても相手の所有者等に通知する必要があります。

実務上は、これらの通知は併せて行うことになるでしょう。実際の通知書には、埋設管やケーブルなどの設備を設置する必要性とともに、その予定位置(図面)や工事内容・予定日などを記載します。この通知書を、土地の所有者および使用者に対し、工事の2週間~1カ月程度前に送付する必要があります。

損害が発生した場合は「償金」を支払う

隣地使用権とライフライン設置権について、土地の使用や設備の設置により相手方に損害が発生してしまった場合、「償金」を支払う必要があります(不法行為などと異なり、合法的な行為により発生する損害についてのものなので、「損害賠償金」ではなく「償金」という用語が使用されます)。

例えば、他人の所有する土地の地中あるいは地上に、導管やケーブルを通した場合、その土地の所有権を一部侵害することになります。過去の同種事例では、賃料相場をもとに使用料相当額の償金を支払うべき、と判断された事例がありました。

また、工事などの際に、やむを得ず他の土地の塀の一部を破壊したような場合にも、償金としてその修繕費用を支払う必要があります。

今回の改正により、活用が困難だった所有者不明の土地などについて、一定程度は利用しやすくなった部分があるかと思われます。その一方で、今後は近隣の土地から、先述のような通知がなされる可能性も考えられるということです。近隣とのトラブルを防ぐためにも、改正法の内容を頭の隅に置いていただければと思います。

(弁護士・関口郷思)


 

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