【wedge】
2023年11月22日
【特集】海事産業は日本の生命線「Sea Power」を 国家戦略に
「制約の多いメキシコで現地の仲間とともに安定生産を実現して内外の顧客に良い品を供給する達成感があった。何か新しいことがしたいという思いが芽生え始めた時、向島ドックの求人を知り、思い切って社長を訪ねてみた」
創業家出身の杉原毅社長(現会長)と意気投合し、縁もゆかりもない向島ドックに転職することを決意した。
「世界一を取った日本の自動車産業から、かつて世界一だった日本の造船産業への転職だが、造船業は構造と環境を変えれば成長できる、夢のある業界だと思った」
久野社長がいま取り組んでいるのは、「ヒエラルキーの一番下からの構造改革」だ。船の修繕業では、顧客から指示された通りに仕様も納期も守ることが当然とされる。だが、工事途中に突発的に不具合箇所が発見されることも多く、結果として残業や休日出勤も当たり前だった。いわば、ヒエラルキーの最底辺。しかし、人手不足が年々深刻化し、働き方改革が求められる中、そんな商習慣に持続性はない。
そこで行ったのが、作業の見える化と標準化、原単位の構築だ。「商船」は自動車などとは違い、全て一品モノ。だからこそ、職人の経験や勘が重宝されていたが、それをデータとして積み上げていった。難しそうに聞こえるが、入り口はいたってシンプルだ。最初は現状把握で「いつ、だれが、どこで何をしたか」日報を正確に書けるように、全員がヘルメットにRFID(電波で位置情報などが分かる)を装着することにした。
最初は抵抗感があったが、それでも標準化を進めていくと、「前より働き方は楽になったのに、ボーナスは上がっている」ことに皆が気付いた。今後、標準化したデータが積み上がってくれば、見えていなかった傾向を掴めたり、工程設計や配員のデジタルツインでより効率的かつ正確な工事シミュレーションしたりすることができる。「デジタルの世界で得られた発見や成果を、最後は人に還元する」のだ。