【ナゾロジー】
2022.04.19
皆さんは「ホロポーテーション(Holoportation)」という技術をご存知でしょうか。
これは、その名の通り、「ホログラム」と「テレポーテーション」を合体させたような技術で、人物の3D映像をリアルタイムで遠隔地に転送することができます。
2016年に開発されたホロポーテーションは、まさにSFファンが長年待ち望んでいた技術です。
そしてこのほど、史上初となる地球から宇宙空間へのホロポーテーションに成功したことが、NASA(アメリカ航空宇宙局)により報告されました。
ついに人類のホログラムは、地球外へと進出するようです。
目次
人物を遠隔地に転送する「ホロポーテーション 」とは
ホロポーテーションは、2016年、米国のMSR(マイクロソフトリサーチ)に属するインタラクティブ3Dテクノロジーズにより開発されました。
この技術は、カメラを通して人物の高品質な3Dモデルを生成し、圧縮して、リアルタイムでどこでもライブ配信できるキャプチャ技術です。
テレポートのように、相手の3D映像を遠隔地から呼び寄せて、空間を超えたコミュニケーションが可能となります。
3Dで再現された人物を見るには、「HoloLens」というAR(拡張現実)ゴーグルを使います。
ARゴーグルは、仮想世界だけを見るVRゴーグルとは違い、現実と仮想がオーバーラップした世界を見ることができます。
そのため、遠隔地にいる相手が、まるで自分と同じ部屋にいるかのような感覚を得られるのです。
初となる宇宙へのホログラム転送に成功
NASAは数年前からホロポーテーションに注目しており、ISS(国際宇宙ステーション)にいるクルーとの連絡に使えないか、検討していました。
そして2021年10月8日、パートナー企業のAEXA Aerospaceと協力し、ついにISSへのホログラムの転送が実現したのです。
地球から宇宙へ「ホロポート」した初の人類は、NASAのフライト・サージャンを務めるジョセフ・シュミット(Josef Schmid)氏と、AEXA AerospaceのCEOフェルナンド・デ・ラ・ペナ・ルラカ(Fernando De La Pena Llaca)氏、それにAEXAの研究チームです。
(フライト・サージャン:航空宇宙医学の知識を持ち、宇宙飛行士の健康管理に携わる専門医のこと)
ISSで対応したのは、ESA(欧州宇宙機関)の宇宙飛行士であるトマ・ペスケ(Thomas Pesquet)氏です。
ペスケ氏は、2021年に、フランス人初となるISSの船長に就任しています。
氏は今回、マイクロソフト社のHololensとAEXA社のカスタムソフトウェアを搭載したパソコンを使い、ホログラムとのリアルタイムでの会話に成功しました。
シュミット氏は「これは、遠距離にいる人同士のまったく新しいコミュニケーション・ツールとなる」と指摘。
「私たちの肉体はそこにありませんが、私たちの存在は確かにあります。
ISSは、地球の上空約400キロを時速2万8000キロで移動していますが、ホロポーテーションのシステムさえ起動していれば、私たちはいつでもその場所に行けるのです」
では、ホロポーテーションは、具体的にどんな使い途が計画されているのでしょうか?
地上の専門家や著名人をISSに転送する
NASAは、将来のミッションでより広範囲にホロポーテーションを利用するための先駆けとして、今回の新たな通信形態のデモンストレーションを行いました。
次に計画されているのは、地球上の人物をホロポートすると同時に、ISSのクルーも地球にホロポートする、双方向のコミュニケーションです。
シュミット氏は「クルーの健康診断や医学的な会議、それに地上にいる家族とのふれあいや、VIPを宇宙ステーションに転送してクルーと面会させるために使う予定」と話します。
また、ホロポーテーションと拡張現実(AR)を組み合わせた、遠隔での技術的アドバイスへの応用も期待されます。
特に、ISSの設備が故障した場合、実際の設計者や修理のエキスパートが、その場に居合わせるわけではありません。
しかし、ホロポーテーションとARを使えば、専門家が地上にいながら、複雑な作業手順をクルーの側で指南することができます。
また、ホロポーテーションは、地球上でも幅広く応用可能です。
極地や戦場、医療現場、海底の石油掘削など、極限的な環境に専門家をホログラムで飛ばすことができます。
たとえば、爆弾解除でも、エキスパートがすぐ横から「それじゃない、上から2番目のコードを切れ!」とアドバイスをくれたら安心できますよね。
ホロポーテーションは、物理的な距離や環境を超えて、人と人をつなぐ革新的な技術となるでしょう。
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