ディープテックは、将来的に世界を大きく変える可能性を秘めた科学技術のことを指します。
「可能性に満ちた深い(ディープ)ところに眠っている技術」と、「社会に深く根ざした問題(ディープイシュー)を解決できる技術」という2つの意味があります。
今回は、名古屋大学発スタートアップのグランドグリーン(名古屋市千種区)は、農作物の種類や系統に関わらずゲノム編集を実装できる技術で適応範囲を広げる、という記事です。
【ニュースイッチ】【ディープテックを追え】
2022年06月16日
【ディープテックを追え】農作物の種類問わずにゲノム編集を実装、名大発スタートアップが手がける技術の仕組み
狙った遺伝子を改変する「ゲノム編集」は、農作物の収量増加などを期待できることから、実用化に向けた期待が高まっている。すでに国内では筑波大学と同大発スタートアップのサナテックシード(東京都港区)が開発したゲノム編集のトマトが承認されている。名古屋大学発スタートアップのグランドグリーン(名古屋市千種区)は、農作物の種類や系統に関わらずゲノム編集を実装できる技術で適応範囲を広げる。
ゲノム編集の欠点を補う
ゲノム編集は遺伝子の狙った部分を切断し、特定の機能を強めたり弱めたりする技術のこと。ハサミの役割をする酵素でデオキシリボ核酸(DNA)の任意の箇所を切断し、生物が持つDNAが修復する仕組みを利用し塩基配列に変化を起こす。従来の品種改良でも時間かけて遺伝子改変を引き起こしている。ゲノム編集ではこの遺伝子改変のスピードを速め、ゲノムレベルでは品種改良との見分けがつかない。また遺伝子組み換えとは異なり、他の生物の遺伝子を外部から導入するものではない。この特性からゲノム編集食品は厚労省への届け出などで販売できる。
ただ、農作物においては活用できる品種が限られるという欠点があった。グランドグリーンの丹羽優喜代表は「品種ごとに個別の開発が必要で、(ゲノム編集を適応できるかは)品種依存性が強い」と指摘する。またラボレベルで開発に成功しても、既存種苗よりも製品競争力があることも重要だ。グランドグリーンはこの課題を解決して、農作物の種類や品種を選ばずにゲノム編集を導入できる技術の確立を目指す。
カギは植物に直接ゲノム編集を施す技術だ。従来は植物に感染する「アグロバクテリウム」という土壌細菌を使い、ゲノム編集を行うことが多い。アグロバクテリウムは植物に感染する際に、自身が持つDNAを植物細胞に挿入する性質を持つ。この性質を利用してゲノム編集を施す。ただ外来遺伝子を活用する上、植物細胞を培養する必要があるため開発に期間が必要だった。同社はアグロバクテリウムを使わずに、ゲノム編集ツールを運ぶデリバリー技術を開発。細胞培養を回避することで、短期間で効率良くゲノム編集を行える。また、アグロバクテリウムの適応が難しかった農作物もゲノム編集ができる。トマトでは系統に関係なく、ゲノム編集を行えることを確認した。丹羽代表は「標準的なアプローチを採用することで、素早く種苗の開発サイクルを行える」と強調する。
多様な植物での適応を目指す
現在は自社開発と種苗メーカーとの共同研究を両輪で進める。共同研究では、同社の技術を活用して、既存の種苗に機能を追加する研究を行う。数十年の期間をかけて開発した種苗に対して、病気に強かったり収量が多くなるといった機能を追加する。現在数社の協業先を20社まで広げる。
これまで品種改良が行われていない農作物は自社開発での販売を目指す。24年にトマトやエゴマ、大豆などゲノム編集した種苗を販売する計画。丹羽代表は「エゴマや大豆は品種改良が難しく、ほとんどされてこなかった」と意義を語る。もともとは研究者だった丹羽代表。「社会の役に立つ研究がしたい」と同社を創業した。将来は高速でゲノム編集を行える点をいかし、消費者や小売店などの要望を種苗に反映させる体制を目指す。「生産者に加え、これまで要望に応えられなかった層に求められる種苗を届けたい」と未来を見据える。
この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
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COMMENT
- 小林健人
- デジタルメディア局DX編集部
- 記者
クリスパーキャス9以降、ゲノム編集は話題に上がる技術になりました。現在も異なるツールの研究がされており、特定の塩基をピンポイントで置き換える「切らないゲノム編集」(神戸大学発スタートアップのバイオパレット)などもあります。食品の機能性ばかりが注目されますが、バイオ技術の進展は今後の産業競争力において重要だと感じます。