【/friday.kodansha.co.jp】
2022年10月29日
「司法試験=六法全書を覚える=暗記力の勝負」!?
「司法試験=六法全書を覚える=暗記力の勝負」と思われがちだ。若ければ若いほど通りやすいイメージはあるが…。
「もちろん若い方のほうが受かりやすいのは間違いないですし、シンプルに暗記力だったら若い方のほうが強いと思います。
でも、年齢が高い人が受からないわけではなく、僕より上の世代、50代、60代の方でも受かっている人はいるんですね。
司法試験は『短答』と『論文』に分かれていて、短答は条文や判例をいかに知っているかで、ある程度合格点がとれる。でも、メインは論文で、暗記も当然必要ですが、それ以上に『こういう時はこんな感じに書く』という論文の書き方の型のようなものが憲法、民法、商法、刑法といった各法律ごとにあり、その型を理解していることが大事な気がします。僕の場合、その型を知るという意味で、過去問をひたすらやったことが大きかったのではないかと思います」
フリーターさん自身、かつては「司法試験=暗記力」だと思っていたと振り返る。
「思えば、暗記力の勝負じゃないと気づいたのが転機だったかも。
過去問を繰り返すうち、『別にこの判例そのものを知っていなくとも、今までの判例の傾向を知っているだけで解けるじゃん』みたいなことがわかってきたんですよ。逆に僕にお金がたくさんあったら、いろいろな勉強法に手を出して、そうした根本的な発想にたどり着けなかったかもしれない。
法務省のホームページに出ている過去問を解説した参考書を繰り返しやる方法しかなかったのですが、逆に言えば、それがうまい方に転がったのかと思います。なぜなら、司法試験の問題は裁判官や検察官、弁護士、法律の研究者など、超一流の実務家が1年かけて1問作るから、非常に質が高いのです。それに対し、予備校などが作るような問題は、学生アルバイトの案出ししたものを法務職の弁護士さんがチェックするみたいな流れで、1年間に何十問も作るから、質が低いものも出てくる。それを数多くこなしても……というところはあると思います」
さらに、かつては「短答:論文=1:4」だった配点割合が、今は「短答:論文=1:8」に変わり、ますます論文重視になっていることも有利だったかも、と分析する。
「短答式試験はセンター試験(現在の大学入学共通テスト)の足切りみたいなもので、ある程度の知識がない人を落とすためのもの。主に暗記力勝負のものなんです。それに対し、以前より論文の比率を大きくしたのは、暗記力だけで法律家にならせるのはまずいだろうという考えもあるからのようです」
司法試験の予備試験は4日間で、短答・1日、論文・3日間というスケジュールだが、短答で合格点に届かない場合は、論文は一切採点されないという。試験解答は予備校などが速報で出してくれて、自己採点するのも共通テストなどと同じ。
今回の場合、短答が満点175点のうち、足切りラインが90点台とのことで、フリーターさんは約140点、8割近く取れていたという。ただし、短答は初回から合格ラインに達していたため、合格に結びついたのは、過去問を繰り返すことで論文の得点を上げられたことがやはり大きいようだ。
ちなみに、予備試験合格者はたった4%程度だが、予備試験合格者が司法試験本試験に合格する確率は97.5%程度。それだけ予備試験合格が“狭き門”で、実力者のみが受かるということがわかる。
「頑張ったら司法試験に受かるとは僕は言えません。諦めた人もそれが悪いことではないですし、そこまでに得た知識を活かして、別の道に行くのも素晴らしいことだと思います。
僕は自分をすごいとは全く思わない。ただ、自分に向いている勉強法と司法試験が合っていたのかなとは思います。極端なことを言うと、司法試験は頭がいい人が受かる試験ではなくて、『司法試験に向いている人が受かる試験』だと思うので。30代後半で受かったのも決して遅いとは思わないですよ。自分に向いていることに一生気づけない人もいる中、僕は死ぬ前に気づけてよかったなと」
将来は経験を生かして労働問題を…
ちなみに、フリーターさんは司法試験に臨む前、かつて父親が司法試験を受けたときに父(フリーターさんの祖父)からもらった万年筆をもらった。試験当日はそれを「お守り」がわりに持参し、答案用紙に名前と受験番号を記入。3世代の悲願を叶え、見事合格を勝ち取った。
会社員を辞め、フリーターになったのは、実に司法試験合格後のことだ。
では、来年4月に司法修習生になった後は?と問うと、こんな目標を語ってくれた。
「実は弁護士としてすでに労働問題に強い大手法律事務所に内定をもらっているんです。僕は労働問題を手掛けていきたい。土木関係の仕事にいて、給料が遅れるとか残業代を払ってくれないとかそういう話をたくさん聞いてきました。残業の際に割り増し賃金を払ったりするのは法律で定められていることなのに、それを守らない会社は許せないんです 。
外国人労働者の問題にも対応できるよう、今後は語学も勉強したいですし、Twitterも守秘義務に触れない範囲で続ける予定です。ただ、フリーターではなくなるので、Twitterのユーザー名はどうしようかなと思案中です(笑)」
- 取材・文:田幸和歌子
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKi Kids おわりなき道』『Hey! Say! JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。