目次

  1. 運送業の労災、荷役作業中が7割
  2. 労働安全衛生規則等の改正ポイント
    1. 昇降設備の設置が義務付けられる貨物自動車の拡大
    2. ヘルメットの着用が必要な貨物自動車の拡大
    3. 運転位置から離れる場合の措置
    4. テールゲートリフターに関する特別教育の義務化

厚生労働省の公式サイトによると、トラック運送業の労災は、荷役作業中に起こるものが7割を占めており、とくにトラックの荷台などへの昇降時の転落だけで4割に上ります。

墜落・転落による死亡災害を詳しく分析すると、最大積載量5t以上のトラックからの災害が約5割、最大積載量2t以上5t未満のトラックからの災害が約4割に上りました。

墜落・転落災害を車両の種類別に見ると、平ボディ、ウイング車で約5割を占め、側面が開放できる構造のもので多く発生していました。

また、休業6ヵ月以上の重傷者の7割は保護帽(ヘルメット)未着用でした。

これまでも労働安全衛生規則で、最大積載量5t以上の貨物自動車には昇降設備の設置や、保護帽の着用が義務づけられてきましたが、労災を減らすため、2023年10月1日から、義務の範囲を広げることになりました。

厚労省が都道府県労働局長あて通知した文書によると、主なポイントは以下の通りです。

  1. 昇降設備の設置が義務付けられる貨物自動車の拡大( 10月1日施行)
  2. 保護帽の着用が必要な貨物自動車の拡大 (10月1日施行)
  3. 運転位置から離れる場合の措置 (10月1日施行)
  4. テールゲートリフターを使用して荷を積み卸す作業への特別教育の義務化(2024年2月1日施行)

最大積載量が2t以上の貨物自動車で荷を積み卸す作業をするとき、昇降設備を設置することが義務となります。

陸上貨物運送事業労働災害防止協会のQ&Aによると、荷を積み卸す作業を行うときに使用する昇降設備は、荷役作業場所に備え付けられ、作業の際に持ち運んで使えるものも含みます。

安全な昇降設備として次のように紹介しています。

  • 地面から踏面(2段以上の場合は段差ごと)の段差が50cm以内であること
  • 両足を置くことができる踏面幅であること
  • 踏面表面上に滑り止め加工がされていること
  • 踏面は板状またはスリット状であること(角柱状や棒状の場合は、三点支持による昇降ができる昇降グリップが必要)
  • 車両取付型の場合は、リア、サイド、あおりなど車体側面から突出して1ヵ所以上設置されていること
  • 地面から荷台までの間に、荷台から見て足裏の半分以上の長さが視認できる踏面が1段以上設置されていること

荷役作業に使うヘルメットは、型式検定(国家検定)に合格した、帽体内部に衝撃吸収ライナーと呼ばれる衝撃吸収材を備えた、「墜落時保護用」の製品を使う必要があります。

次のいずれかに該当する貨物自動車で荷を積み卸すときは、ヘルメットの着用が義務となります。

  • 最大積載量5t以上
  • 最大積載量2t以上5t未満で、荷台の側面が開放できるもの(あおりのない荷台のあるもの、平ボディ車、ウイング車など)
  • 最大積載量2t以上5t未満で、テールゲートリフターが設置されているもの(テールゲートリフターで荷の積卸しを行うときに限る)

一方、テールゲートリフターが設置されている貨物自動車での荷役作業で、以下の場合はヘルメットの着用義務はありません。

  • テールゲートリフターを使わずに荷を積み卸す作業を行う場合
  • テールゲートリフターを中間位置で停止させ、労働者が単にステップとして使用する場合で、荷を積み卸す作業を行わないとき
荷台の側面が開放できる それ以外
5t以上 必要 義務ではない
2~5t(テールゲートリフター設置あり) 必要 テールゲートリフター使用時に必要
2~5t(テールゲートリフター設置なし) 必要 義務ではない

運転者が運転位置から離れる場合、貨物自動車の逸走を防ぐため、以下が義務付けられています。

  • 荷役装置を最低降下位置に置くこと
  • 原動機(エンジン)を止めること
  • ブレーキを確実にかけるなどの逸走防止措置を講ずること

しかし、原動機を動かさなければテールゲートリフターが動かない構造もあるため、運転席とテールゲートリフターの操作位置が異なる場合は、逸走防止措置を引き続き義務付けるが、原動機の停止義務については適用除外となります。

ただし、ブレーキを確実にかけるなどの逸走防止措置は必要です。

荷役作業に使うテールゲートリフターは、機能や危険性を意識し、安全な作業方法を身に付けた上で作業を行う必要があります。この項目のみ、2024年2月1日施行です。

特別教育とは、労働安全衛生法にもとづき「厚生労働省令で定める危険又は有害な業務」に労働者をつかせるときに、事業主が行わなければならない教育のことを指します。

科目 時間
テールゲートリフターに関する知識 1.5時間以上
テールゲートリフターによる作業に関する知識 2時間以上
関係法令 30分以上
実技教育 2時間以上

※特別教育の科目の全部または一部について十分な知識と技能を有していると認められる労働者は、一部の特別教育を省略することができます

特別教育の受講者、科目等の記録を作成し、3年間保存する必要があります。2024年2月1日以降は、特別教育を受けた者でなければテールゲートリフターによる荷役作業ができなくなりますので、2024年1月末までに特別教育を受講する必要があります。

特別教育をせず、労働者に作業させた事業主は、労働安全衛生法違反で、「6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金」、特別教育の記録を保存しなかった事業主は「50万円以下の罰金」となるので注意してください。