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【中国新聞社】広島市議会の議員の発言を分析したサイトを作った理由(報道センター社会担当・明知隼二)

中国新聞社 報道センター社会担当記者 明知隼二(あけち・じゅんじ)氏が独学でプログラムを習得されて、広島市議会の活動をデジタルで視覚化されたようです。

明知氏も言われているように「議会全体をまとめる議長など、任される役職によっては発言の機会が制限されるので、それぞれの議員が担う役職も記した。」とあり、その他何らかの事情も考慮しなくてはならず、視覚化されたデータベースはあくまでも「参考」としてほしい、というのはその通りだと考えます。

これからの地域社会は変革を迫られており、これまで議会でどのようなことがどういった形で議論されているのか分かりづらかったことを、こういう形で視覚化するというのは、とても面白い試みだと感じます。(N)2022.4.18



中国新聞U35

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 地元の議員さんって何してんだろ…。そんな疑問を抱いたことはないだろうか。もしかすると、そもそも議会の存在を意識したことがないという人の方が多いかもしれない。そんな人たちが議会を知る助けになればと思い、広島市議会での議員の発言を分析したウェブサイト「市議会って何の話をしているの?」を1月下旬に公開した。ITを活用して読者の皆さんの「知りたい」に応えるための一つのチャレンジだ。

◆サイト作り

 サイトを作るため、記者業の傍らウェブ制作やプログラミングを一から学んだ。新聞記者がなぜ、わざわざそんなことをするのか。もちろん自分なりの意図はあるのだが、まずはサイトを簡単に紹介したい。

市議会って 何の話をしているの? 広島市議会議事録分析データベースサイト

市議会って何の話をしているの? 広島市議会議事録分析【2022年1月公開・随時更新】|中国新聞デジタル「市議会って何の話をしているの? 広島市議会議事録分析」は、中国新聞社が運営するサイトです。公開されている広島市議会議事録www.chugoku-np.co.jp

 広島市議会では、選挙で選ばれた市民の代表である議員54人が、市の政策について議論する。サイトを開くと、まずは各議員が議会でどれだけの発言をしたかの一覧を見ることができる。議員名で検索したり、自分が住んでいる区、つまり選挙区ごとに絞り込んで表示したりすることもできる。

 地元の議員がどれくらい活発に議会で発言をしているかの参考にしてほしい。ただし、議会全体をまとめる議長など、任される役職によっては発言の機会が制限されるので、それぞれの議員が担う役職も記した。

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議員別の発言量が分かるサイトでは、選挙区や当選回数での絞り込み表示もできる

 次に議員の名前をクリックしてみよう。それぞれどんな単語をよく使っているだろうか。教育や観光、まちづくりなど、議員それぞれの傾向が浮かぶ。さらに発言内容を見てみると、同じ「学校」でも、いじめ問題や給食の改善、「マンモス校」の問題など関心はさまざまだ。市議会がインターネット公開している議事録へのリンクも貼っているので、関心が湧いたらぜひ原文も確認してみてほしい。

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それぞれの議員の発言抜粋も見られる。市議会のサイトへのリンクも貼っているので、気になった発言があればぜひ原文を確認してほしい

 さらにキーワードによる検索も可能だ。スポーツやまちづくり、文化、教育など、自分の関心に応じてキーワードを入力してみてほしい。どの議員がその分野に関心を寄せているのかが分かるはずだ。何を検索したらいいか思い付かない人のため、ページを開くたびにランダムに10個のキーワードが表示される機能も盛り込んでいる。まずは気軽にキーワードボタンを押してみると、思わぬ発見があるかもしれない。

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議員別の発言量が分かるサイトでは、選挙区や当選回数での絞り込み表示もできる

◆議会のことを伝えられているか

 「地元紙として、地元議会のことを十分に伝えられているだろうか」。新たなサイトを作った背景には、長く抱えてきたそんな疑問があった。もちろん注目度の高い政策については議会での議論を紹介するし、不祥事などがあればそれも報じる。新聞紙面には、議会での質問を短く紹介するコーナーもある。それでも議会での議論の全体像を伝えられているかといえば、必ずしも十分とは言えないだろう。

 選挙の報道もそうだ。市長選挙と比べるとよく分かる。例えば2019年の市長選挙には3人が立候補した。候補者へのインタビューやアンケート、連載など、大切な市のトップを選ぶ機会だけに手厚く報じている。では同じ日にあった市議選はどうだろう。54人を選ぶ選挙で、立候補者は80人。一人一人がどのような政策を掲げ、議員として何を実現しようとしているのか、十分には伝え切れていないのが正直なところだ。この点はぜひ改善していきたいと思っている。

 ではせめて、当選した議員が議会で何をどれだけ語っているのかぐらいは、もっと伝えることができないだろうか。それがサイト制作の出発点だ。

◆デジタルコンテンツを作ってみたい

 実は、自分の中でもう一つの関心を膨らませていた。報道機関によるデジタルコンテンツの制作だ。海外では2012年に米ニューヨークタイムズが制作した作品が爆発的に注目を集めた。国内でも全国紙が間もなく取り組み始め、その後は地方紙の有志が次々と挑戦を始めた。こうした事例に接するたび、自分でも作ってみたいという気持ちを募らせていた。

 何度か独学と挫折を繰り返した後、いよいよ本格的に勉強し始めたのは2020年11月。会社の補助も受けて仕事の傍らスクールに通い、半年ほどウェブ制作を学んだ。初めて手掛けた本格的なデジタルコンテンツが、その卒業制作として仕上げた「みんなの校則データベース」だ。

みんなの校則 データベース 広島県内公立高校版データベースサイト

 広島県内の公立高校の校則を入手し、同僚の協力も得て全てテキスト化してデータベースとして公開した。行きすぎと思えるような理不尽な校則がちょうど話題になっていた時期でもあった。

 このデータベースを作った問題意識の核心は「知ることからしか始まらない」ということだ。子どもたちにとっては、ほぼ学校イコール社会だ。そこで課されているルールは、多少おかしなものが含まれていても「そういうものだ」と受け入れてしまいがちなのではないかと考えた。でも他の学校の校則を知る機会さえあれば、その当たり前が揺らぎ、自分たちのルールについてあらためて考えるきっかけになるのではないか。そんな期待があった。

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仕事の傍らでデジタルハリウッド広島STUDIOに通った

 自分たちのルールについて、自分たちで考え、必要なら変えるための議論をする。少しおおげさに聞こえるかもしれないが、それは有権者になるための準備としてもふさわしいようにも思えた。その材料を提供できればいいなと思っていたわけである。

 ちなみにこの校則データベースを公開した時は、一緒に仕事をした同僚と話し合った上で、関連記事も含めて決して「ブラック校則」という言葉は使わなかった。今は奇妙に映る校則にも、そこに至る経緯があっただろう。学校を敵に仕立てたいわけでも、つるし上げにしたいわけでもない。端的に、知ることを支援したかったのである。こちらのデータベースも情報を更新したいと思っているが、手が回っていなくて申し訳なく思っている。

◆議事録サイトの意味

 議事録サイトも、関心としてはその延長線上にある。やはり「議会で何が議論されているのか」「議員さんが何を語っているのか」が分からなければ、応援も批判も議論もできないだろう。やはりこれも、知らなければ始まらない。

 校則データベースの制作後、ウェブ制作に加えてプログラミング言語のPythonも独習した。本来業務の傍らで取り組んでいたこともあり、約半年がかりでようやく議事録サイト制作にこぎ着けた。実際に分析してみると、ほとんど発言をしない議員もいるなど驚くべき現状もあらためてはっきりした。

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自宅での作業環境。画面の狭さがつらくなり、持ち運べるサブモニターを買った

 ただ、議員たちの言い分もあるだろう。取材の中でも「数字で議員の仕事は測れない」「議会で質問をしなくても、地域の要望を受けて問題解決をしている」「話が長ければいいのか」など、直接、あるいは間接的にいろいろと意見を聞いた。もちろん人柄など形のないものを含め、議事録に全てが表れるわけではないというのは分かる。

 一方で、正式に記録が残る議場で意見を交わし、妥協点を探り、政策を決定していくというのが本来の議会の役割であることも間違いない。それは市民が誰でも見聞きできる場所で物事を決めていくということだ。また「量だけでは測れない」からこそ、発言内容もしっかり確認できるつくりにしたつもりだ。サイトを見る方もぜひ、発言の中身まで見て判断材料にしてほしいと思う。

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同僚と打ち合わせする明知記者㊥

 報道機関によるデジタル技術の活用はますます広がっている。それは地方紙も例外ではない。むしろ、市民生活に近い場所で報道活動をする地方紙こそ取り組むべきだと思っている。

 報道は、文章と写真や動画を組み合わせたものだけとは限らない。校則データベースや議事録サイトは、こちらから届けただけでは終わらず、使う人が自分の関心に沿って活用して初めて完成する。あえてそういう作りにしたつもりだ。だからこそ、もっと活用してもらえるように届ける努力をしないといけないと思っている。このnoteもその一環だ。

 これまで新聞記者はITから縁遠い仕事だったが、これからはいや応なく変わっていくだろう。個人的にもやりたいことはまだまだ山積みだ。さらに勉強を重ね、新しく面白い方法で読者の「知りたい」に応えていきたい。皆さんのアイデアもお待ちしています。

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書いた人・明知隼二(あけち・じゅんじ)
2008年入社。41歳。島根県・松江支局などを経て報道センター社会担当記者。広島市役所で主に原爆・平和分野を担当する。

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