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【motor-fan.jp】水素を燃やして走るロータリーエンジン[内燃機関超基礎講座]

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かつて、マツダは水素/ガソリンのバイフューエル使用ロータリーエンジンを開発、販売していた。水素と相性がいいとされるロータリー、その理由を探る。
TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)

「次世代エネルギー」候補として、期待が寄せられているもののひとつに水素がある。この水素を自動車用エネルギーとして用いる場合、道はふたつある。ひとつは燃料電池(FuelCell)スタックを介して発電し、その電力でモーターを駆動して走る燃料電池車(FCV)。そしてもうひとつは、水素を内燃機関で燃焼させて走る、水素エンジン車だ。

今日に至るEV、FCVなどの開発が活性化した直接のきっかけは、1990年に制定された米国のクリーン・エア・アクトと、CARB(California Air Resource Board)が発表したZEV(Zero-Emission Vehicle)に至るプログラムである。世界中の自動車メーカーの間で、EVならびにFCV開発ブームが起こった。この流れを受けて、マツダもZEV開発に取り組む。2001年にはバラード社製のFCスタックを搭載し、メタノール改質方式を採用した「プレマシーFC-EV」で国土交通省の大臣認定を受けてナンバープレートを取得、FCVとしては日本初の公道走行試験を実現した。

プレマシーFC-EV

同じ時期、マツダ内部では水素内燃機関の研究も行なわれていた。FCVが完全なゼロ・エミッションであるのに対し、水素内燃機関は若干のNOxなどが生じてしまう。そのネガゆえ、ZEVの本命をFCVとしていたが、実現性を念頭に置いた場合、水素内燃機関ゆえのメリットも大きいのではないか?との発想から、研究が続けられていたのだ。

たとえば、FCVの場合、燃料として用いる水素には99.99%の純度が求められる。このレベルに純度を上げるためには、それなりのエネルギーが費やされる。対して水素内燃機関は70~80%の純度で十分に対応できる。水素供給インフラが十分に整っていない現状、FCVでは燃料系の針が半分程度になると、どうしても不安感が先に立ってしまいがち。しかし水素内燃機関なら、水素とガソリンを切替えて作動する「デュアル・フューエル」仕様の実現が可能だ。

このような見解から、レシプロとロータリーエンジンの両面で基礎研究が進められた結果、「水素の特性上、REにメリットがある」との判断に至り、以後、水素REの研究・開発が本格的に始まった。

2003年の東京モーターショーに技術参考展示として出展された、水素REの将来像。電気アシストターボチャージャーとハイブリッドシステムを組み合わせていた。

レシプロに対するREのメリットとは何か? 水素内燃機関の実現において最大のネックになっていたのは、水素の最小点火エネルギーの小ささだ。ガソリンの最小点火エネルギーが0.24mJであるのに対し、水素は0.02mJ。つまり10倍着火しやすい。

通常のレシプロエンジンは吸気室=燃焼室で、さらに高温となるバルブ類が室内に露出している。水素を入れた瞬間、燃焼室自体の高温によって着火してしまい、異常燃焼(バックファイア)が起こりがちなのがネックだ。対して、吸気室と燃焼室が分離しているだけでなく、バルブ類も存在しないREなら、異常燃焼の問題をクリアしやすいのではないか?

「たとえば、水素用インジェクターはガスのインジェクターなので、噴射ボリュームを確保するにはある程度の径が必要になってしまい、レシプロエンジンでは置き場所に苦労します。しかしREならトロコイド上部に広大な場所があって、しかもこの部分は燃焼に直接晒されないので、水素を吸気する場所として、とても都合がいいのです(プログラム開発推進本部 開発主査 柏木章宏氏)」

水素が持つ燃焼速度の速さも、REに向いている。ガソリンのλ=1時の層流火炎伝播速度が40cm/秒なのに対し、水素は265cm/秒。ガソリンでは燃焼が不可能なλ=2の状態でも、水素なら48cm/秒で燃焼する。条件によってはもっと速くなってしまうが、音速を超えない限り、この特性もREにとって好都合だ。REの作動室は縦長の形状であるため、層流火炎がすみずみに行き渡るまでに時間がかかる。しかし着火性がよく、早く燃える水素なら、燃焼特性の改善という点でもマッチングがいいわけだ。

相性の良さは、具体的には排気量あたりの出力の高さとなって表れる。“市販”されていたRX-8ハイドロジェンREが搭載する水素RE(基本部分はRENESIS13B-MSPのまま)は、総排気量654cc×2で、水素使用時の最高出力109ps、最大トルク140Nm(14.3kgm)を発生する。

RX-8ハイドロジェンRE
RX-8ハイドロジェンREが搭載する水素REの概要。基本構造はRENESIS13B-MPSと同様で、吸気室上部に水素インジェクターを追加した構成だ。ガソリンはポート噴射。燃料は運転席足元にあるスイッチで任意に切替えられる(ガソリン→水素は停止時のみ切替え可)。
RX-8ハイドロジェンREのコンポーネント構成図。水素タンクは車体後部、ラゲッジスペースとなる部分を占有する形で収められている。

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