2022/06/23
【ラジトピ】
日本経済を支える基盤である「中小企業」。日本の企業の99.7%を占めていますが(※1)、近年続く減少傾向の背景には、後継者問題やコロナ禍における資金繰りなど、さまざまな課題が横たわっていると言われます。
そこで、兵庫県弁護士会の業務委員として、中小企業が抱えるあらゆる問題に取り組む、神戸明石町法律事務所の松谷卓也弁護士に話を聞きました。
――中小企業が抱えている問題には、どのようなことがあるのでしょうか。
【松谷弁護士】 中小企業の多くが抱える問題の1つとして、「後継者不足」が挙げられます。実際に事業承継、事業譲渡の相談を受けることは多いのですが、最近は、ご子息がいても後を継がないなど親族の中に承継者がいない場合が多くなっているため、第三者による事業承継の相談が増えています。
その際、私は弁護士として、契約書の内容などいろいろな観点からのアドバイスを行なっているのですが、実は中小企業の事業承継に弁護士が介入しているケースは意外と少ないんです。
最近は、事業譲渡の仲介業者が増えており、弁護士がタッチせず仲介業者のみで行う場合も多くなっています。しかし、事業譲渡による第三者の事業承継はさまざまな問題をはらんでいるのでトラブルに発展してしまうケースも多く、できる限り弁護士が関わって、円滑に進める役割を担わなければいけないと思っています。
――事業承継は税理士の役割でもあるかと思うのですが、違いは何でしょうか。
【松谷弁護士】 税理士は財務関係など金銭面に関わることが多く、弁護士は契約関係や労働関係、株主のチェックなどを行うため、項目が全然違います。
会社は、複数の人やモノ、権利関係の集合体でもあるので、決算書を見るだけでは分からない部分が多数存在します。権利関係や株主関係などについても、実際はどうなっているのか、弁護士が介入して法律的な目線で調査して見える化することにより、トラブルや失敗を減らすことができるのです。
近年は、第三者への事業譲渡という形で事業承継を行うことが増えています。価値のある技術を絶やさないためにも、国をあげて事業承継に取り組んでいるので、弁護士としても手助けしていきたいと思っています。
――「労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)」が、今年4月から中小企業にも義務化された影響は?
【松谷弁護士】 パワハラ防止法は2020年に施行されたのですが、当初義務化の対象は大企業のみで、中小企業は努力義務でした。しかし、2022年4月に中小企業も義務化されることとなりました。義務化に伴い、企業では通報窓口を設置しなければならないのですが、実務的に対応できてない中小企業が多いのも事実です。
実際、近年の裁判所の新受件数で、民事訴訟の総数はあまり増えていないのですが、労働事件と交通事件については増えています。労働事件でいうと、残業代の請求などが多いだけでなく、パワハラ・セクハラの問題も多いため、中小企業にもパワハラ防止法が施行された今、弁護士がもっと中小企業の内部に入り、サポートして窓口を設置していかなければならないという課題もあります。
従業員のためはもちろんですが、窓口を作り、早期段階で第三者の専門家を介入させることが会社を守ることにもなります。トラブルをこじらせて会社の損害やコストが大きくなり、風評被害等も生じる前に解決できますし、労働環境を守るための対策をしていることは企業価値にもつながります。弁護士として、経済の基盤でもある中小企業を法的に支えていく必要があると感じています。
新型コロナウイルスは、日本経済全体に大きな影響を与えていますが、中でも中小企業への打撃は特に大きく、殊に、飲食やブライダル関連の会社は大きな痛手を負っています。アフターコロナで、資金繰りの相談や、再生、倒産、経営者保証の免除等といった新たな経済的再生、リスタートのための手続きのお手伝いをすることもあります。
※1 『中小企業白書 小規模企業白書 2021年版』中小企業庁編より
◆松谷卓也(まつたに たくや)弁護士 神戸明石町法律事務所(神戸市)
2004年に九州大学法学部を卒業。翌年の2005年に弁護士登録し、兵庫県弁護士会に入会。2013年には、神戸明石町法律事務所を開設。兵庫県弁護士会の業務委員として中小企業問題などに取り組む。