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【弁護士JP】「無車検、無保険」の車にはねられ死亡…遺族が加害者に「損害賠償請求できない」理不尽の理由/2022年07月19日 12:16

【弁護士JP】

2022年07月19日 12:16

7月12日、さいたま地裁で無車検、無保険の車を酒気帯び状態で、かつ法定速度の3倍以上の速度で運転し、女性をはねて死亡させた被告人に対し、懲役8年(求刑・懲役10年)の判決が言い渡された。

この事故は2018年10月に発生した。当時、埼玉県飯能市の県道で、制限速度を96キロ超えるスピードで走行中の被告人の車がカーブを曲がり切れずに、路側帯を歩いていた女性をはねたもの。被告人の車はガードレールに衝突、その勢いにより路上で横転した後に止まったという大きな事故だった。女性は全身を打ち、多発性外傷の傷害によりまもなく死亡した。

報道によれば、被告人は事故後から公判が始まるまで、遺族への金銭の賠償、謝罪などは一切なかったという。さらに、「車の車検切れ」から遺族への賠償金の支払いができない旨も述べているとされている。

このようなケースでは、遺族は最低限の賠償金の請求すらあきらめ、「泣き寝入りする」ほかにないのだろうか。

「無車検・無保険」の車は珍しくない!?

車の保険は大きく「自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)」と「任意保険」の2つに分かれる。加入が義務付けられている自賠責保険の目的は、主に自動車事故「被害者」の最低限の救済で、保険金支払い最高額は被害者1名につき死亡、後遺障害3000万円(常時介護の時は4,000万円)、傷害120万円と設定されている(それを超える賠償額は加害者に請求)。

自賠責保険は、主に車検を受けるタイミングでの加入となるため、前出の事故を起こした車のように「無車検」であれば、自動的に「無保険」という状態になる。国土交通省の調査(2018年)によれば、全国で推定約20万台前後の無車検車両の実態が報告されており、車検切れで走行している車は“レア”ケースでもないことが分かる。

「政府による保険事業」はどこまで活用できるのか

ひき逃げや加害者の車両が無保険であった場合、被害者に対して政府がその支払いを“肩代わり”してくれる政府保障事業もあるが、その有効性などについて、交通事故の対応も多い荒居聖弁護士に話を聞いた。

無車検、無保険の自動車事故で「被害者(けが、死亡)」となった場合の現実的な対応法を教えてください。また、保険とは別に、加害者、および加害者の両親(親族等)への損害賠償請求は可能でしょうか。

荒居弁護士:加害者が「無車検、無保険」の場合、「加害者が未成年者である」といった特別の事情がない限り、被害者は、加害者個人に対し、損害賠償請求をすることになります。ただ、加害者が無車検、無保険の場合、加害者には資力がないことが多いものと考えられます。その場合には、被害者が加害者に対して、法的に損害賠償請求権を有していても、加害者からの実際の回収見込みは低いものと考えられます。

なお、加害者の両親は、加害者が未成年者であり、監督義務を怠ったといった特別の事情がない場合を除き、被害者に対して損害賠償責任を負うことはありません。これは、車同士の事故でも同様となります。

「危険運転致死罪」や「道路運送車両法違反」“以外”に相手の過失に対して罪を問うことは可能でしょうか。

荒居弁護士:こちらは刑事上の問題となりますが、「危険運転致死罪」は、自身の運転行為が危険であるとの認識(故意に基づく危険な運転)があった場合に成立する犯罪です。したがって、危険運転致死罪という故意犯が成立する場合に、別途、加害者の過失を問うことはできません。

事故の加害者(相手)が「無車検、無保険」であった場合、「政府による保障事業」の活用はどこまで有効となり得るのでしょうか。たとえば自賠責保険の保証額以上の損害を受けた場合、他に解決の選択肢はどの程度あると考えられますか。

荒居弁護士:「政府による保険事業」は、自賠責保険の対象とならない「ひき逃げ事故」や「無保険事故」に遭われた被害者に対し、法定限度額の範囲内で、健康保険や労災保険等の他の社会保険の給付や本来の損害賠償責任者の支払によっても、なお被害者に損害が残る場合に、最終的な救済措置として、政府(国土交通省)がその損害を補填する制度です。

「政府による保険事業」による填補金は、自賠責保険の支払い基準によって支払われます。ただし、前述のとおり、健康保険や労災保険などの社会保険からの給付を受けるべき場合、その金額は差し引いて補填されます。

それ以上の損害を受けた場合には、加害者に対して、損害賠償請求をすることが選択肢として考えられます。もっとも、前述のとおり、加害者が無車検、無保険の場合、加害者には資力がないことが多いものと考えられます。その場合には、被害者が加害者に対して、法的に損害賠償請求権を有していても、加害者からの実際の回収見込みは低いものと考えられます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。


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