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【BizHint】経済環境が厳しい山陰地方で売上180億。社員が辞めない会社になった「五方良し」の経営とは/BizHint 編集部 2022年8月22日(月)掲載

【BizHint】

BizHint 編集部 2022年8月22日(月)掲載

中小企業の多くは価格競争型企業であり、誰かが犠牲になる厳しい経営を強いられています。そうでなくても利益重視の経営で労働環境が悪化し、社員の離職が絶えない企業も多いでしょう。そんななか、島根電工株式会社は人を幸せにする経営を実践し、地方建設業ながら離職率1%と社員が辞めない会社になりました。日本でいちばん大切にしたい会社大賞 中小企業庁長官賞を受賞した同社代表の荒木恭司さんに、厳しい経営環境下でも成長し続ける幸せな組織づくりについて伺いました。


島根県雲南市生まれ、駒澤大学法学部卒。東京の芸能プロダクション勤務を経て、1972年に島根電工株式会社入社、2010年に代表取締役社長に就任。島根電工グループのトップも務める。島根県立大学理事、一般社団法人日本電設工業協会理事、一般社団法人島根県電業協会会長、島根県職業能力開発協会会長。

<島根電工株式会社について>
1956年創業。島根県松江市にある電気設備・通信設備・給排水衛生設備・空調設備の設備工事会社。2020年度の売上高はグループ全体で約180億。従業員数は422名(グループ655名)。
公共工事受注主体から小口工事の受注拡大に成功し、右肩上がりに成長を続け、バブル期よりも売上を3倍に伸ばす。週3日のノー残業デー、プレミアムフライデーの実施など働き方改革も積極的に進め、離職率は1%と「社員が辞めない会社」に。また、業界活性化を狙い全国でフランチャイズ展開を開始、同業者50社以上の経営支援を行う。
受賞歴 :グッドキャリア企業アワード イノベーション賞/日本サービス大賞 地方創生大臣賞/2021年 日本でいちばん大切にしたい会社大賞 中小企業庁長官賞 ほか


「普通のことをやっていますが、他から見ると普通じゃないようで…」と語る荒木さん。島根電工株式会社の魅力とノウハウを語っていただきます。

利益重視の「株主のための経営」に潜む落とし穴

全国には個人・法人を含めて400万社もの企業があり、そのうち73%は赤字企業だと言われています。中でも中小企業の経営者は、自社の業績が伸び悩む原因を「景気が悪いから」「政治が悪いから」「〇〇業だから」「地方だから」「小規模だから」と他責にしがちですが、これらは経営者の誤解・錯覚・甘えです。 どの地域でもどんな商売でも成功している会社はあります から、正しい原因だとは言えません。

ではなぜ中小企業が伸び悩んでいるのかというと、日本に欧米型の経営が浸透したことで、家電・自動車メーカーを筆頭に大手企業が独り勝ちする状態になり、弱肉強食の社会になったからでしょう。

もともと日本企業は 「企業は人を幸せにするためにある」 という目的・使命を掲げていました。パナソニックやホンダがその筆頭です。しかし、フレデリック・W・テーラーが科学的管理法として「経営目的は株主利益の最大化」と提供したり、シカゴ大学のフリードマン教授がニューヨークタイムズに「企業の社会的責任は利益を増やすことにある」と寄稿したりしたことで、学者やメディアも業績・効果効率・コストを重視した「株主のための経営」を教えるようになりました。

こうした業績の最大化、株主の期待を最優先とする 「株主第一主義」が浸透し、社員をリストラの対象にする世の中になってしまったことで、日本企業の成長は著しく滞ってしまったと私は考えています。 平均給料は30年間も上がらず先進7カ国中6位ですし、一人当たりのGDPもOECD加盟38カ国中23位と低迷しています。こうした労働環境の悪化が起きれば、離職率が上がるのも当然です。

社員が辞めない会社になった「五方良し」の経営

そんななか、超過疎地と言われる山陰地方にある当社が、離職率1%の「社員が辞めない会社」になっている理由は、 社員とその家族を第一優先にした五方良しの経営を行っているから です。

1番目を「社員とその家族」とするのは、売上主義との決別 でもあります。売上主義だと「株主のための経営」になり、株主を1番目にしますから、売上のためにプライベートを犠牲にする社員が優秀だとされ、体も精神も疲れ果ててしまうでしょう。だから我々は あえて株主を5番目にしています。

2番目が「取引会社の社員とその家族」。 一般的な三方良しの経営は「売り手よし、買い手よし、世間よし」というものですが、これだと無理なコストダウンを強いられ、取引会社の経営が悪化し、その社員は給料が上がらずボーナスも出ない、といったことになりかねません。「取引会社の社員とその家族」が軽視され、痛めつけられてしまうんですね。

我々は売上よりも人を幸せにすることを重視しているので、複数社に見積もりを取って一番安い会社に発注するといったやり方はしていません。「見積もりを取るのは一社で良い、これまで手伝っていただいた会社に発注しなさい」と伝えています。 「別に安ければどこの会社でも良い」という関係では、いい結果にならないんです。

3番目が「お客様」。 昔は顧客第一主義で「お客様は神様」という言葉もありましたが、やはりそうなると 社員のプライベートが犠牲になり、離職率が上がって持続しません。 だからお客様は大事ですが、島根電工では3番目としています。

4番目は「地域とその社会」。 地域で仕事をしている以上、地域を元気にするのは大切な使命です。山陰地方の人口は、島根県が約67万人、鳥取県が約55万人で、合計すると、世田谷区や中野区の人口に過ぎません。でも「地方だから無理」なんてことはないんです。 地方貢献で一番大事なことは雇用を増やして人口減を止めること だと考えているので、我々は障がい者や高齢者も雇用して活性化を目指しています。

「期待を超える感動」で価格競争を避け、売上が約80億増に

私は「安くて良い物」なんて存在しないと思っています。 あるとしたら「誰かの犠牲によって安く“させられた”良い物」なんです。 だから価格競争ばかりしている企業はいずれ経営が傾きます。

低価格に頼らず、適正価格で仕事をして売上を立てる“健全経営”を実現するには「『期待』を超える『感動』」を届けるのが大事だと考え、これを当社のスローガンにしました。これは書籍『リッツ・カールトン 超一流サービスの教科書』から学んだことです。

たとえば 「美味しいものを食べたい」と思ってレストランに行って、実際に美味しいものが出てきても期待通りでしかなく、満足はしても感動はしない ですよね。適正価格のまま顧客を創造するには、お客様の想像を超えるサービスを提供しなければならないんです。

1997年、小泉内閣発足により建設業界に逆風が吹きました。社内では「公共工事はなくならない」という声もありましたが、100万円未満の小口工事へと大きく経営方針を転換することにしました。それが、住まいの「困った」を即解決するというお客様に寄り添ったサービス「住まいのおたすけ隊」です。

住まいのおたすけ隊HPより(2022年8月現在)

テレビCMを打ち出したところヒットし、一般家庭からの依頼が増加。令和2年度のグループ全体の小口工事の売上高は提案工事含めて77億円になったんです。総売上が180億円でしたから、全体の約4割を占めるほどに成長しました。

これだけ小口工事が増えたうえに、リピーター率は90%以上と非常に高い数値を誇ります。これは、 お客様にきちんと挨拶する、笑顔で話す、約束を守るといったホスピタリティが「住まいのおたすけ隊」の強み であり、期待を超える感動を与えて、支持されているということ。そして、この強みを活かすためには、お客様にしっかり寄り添いたいという気持ちを持った社員を育てることが大事なんです。

研修とは、教える側も教わる側も相乗効果で成長する自己研鑽の場

こうした社員を育てるため、若年社員研修、職種別研修、管理者研修と各フェーズに合わせた研修制度を設けています。

1~3年目の若年社員は3年間で10回の宿泊集合研修を実施し、初日には社長である私が「何のために働くのか、そして生きるのか」を説明して、職業人としての人格教育から専門教育までを行います。

外部講師は一人もおらず、役員など中間管理職の社員が直接指導しています。中間管理職の社員には「あなたは部門の社長だよ」と責任感を持たせつつ、こうした教育においては「部下を預かったら数段上のレベルにまで育てなさい」と伝えて意識改革をしています。 教える側も勉強して自己研鑽する機会になり、相乗効果が生まれていますね。

職種別研修は新任・初級・中級・上級の4種類があり、職種別の階層研修によって着実なキャリアアップを促します。管理者研修では、係長を対象に1泊2日の宿泊集合研修を計6回実施し、管理職としての基礎から実践までを体系的に学びます。

不慣れな若年社員が悩んで相談できないまま辞めないよう、B.B(Big Brother)制度も導入しました。専属の若手先輩社員が「お兄さん・お姉さん役」となり、細やかな指導や支援を行ってフォローアップします。もともとは半年間でしたが3年間に延長し、安心して働ける環境や体制を整えました。これも離職率の低下に貢献しています。

週3日のノー残業デーと月1回のプレミアムフライデーを続けられる理由

島根電工の離職率が1%と低いのは、こうした研修制度に加え、 社員の負担を減らす業務効率化や働き方改革にも注力している ことも大きいと思います。

小口工事で新しいビジネスが急拡大した時は、社員の負担が増加してしまいました。提案営業を行っている営業担当者は毎日遅くまで残業するようになり、労働環境が悪化してしまったんです。そこで酒屋や自動販売機の販売員が使っている機械を参考にして、客先ですぐに小口工事の見積もりを算出できる「サットくん」を開発。お客様の「一体いくらになるのか」という不安を解消しつつ、見積もりのために何度も行き来していた営業の負担は減り、行動のコストダウンを実現しました。

こういった改善の積み重ねの結果、働き方改革として、 週3日のノー残業デー と プレミアムフライデー を実施することができています。

ノー残業デーは「〇時に帰る」という札をデスクに立て、定時5分前にはパソコンに「まもなく定時です。シャットダウンしてください」という通知が出ます。さらに定時になると画面の半分が赤くなり、上司に残業申請を行わないと動かない状態にすることで徹底しています。

残業のやり方にも工夫があります。「〇時まで残業します」と上司に申請してOKをもらうのが一般的だと思いますが、これだと残業して当たり前になってしまう。そこで、部下が「〇〇の仕事で残業をしたいです」と事前申請した際に、上司が「それなら〇時間で終わるだろう」「それだと〇時間がかかるだろうから、〇人サポートを出して〇時に終わらせよう」と調整して効率化したうえで、最低限の残業を指示する仕組みにしました。 残業が減るのはもちろん、上司は部下の仕事内容や働き方が把握できるようになります。

もう忘れている人がいるかもしれない「プレミアムフライデー」も働き方を変えるチャンスとして取り入れ、今でも月末の金曜日は15時上がりです。最初は「こんな田舎で15時に仕事を上がって何をするんだ」という声が出ましたが「探せば15時からやってる居酒屋もあるだろう」とけしかけて、初年度は全社員に一人3,000円、翌年からはもう1杯飲めるように4,000円を支給し続けています。

ルールは1つだけで、 必ずプレミアムフライデー当日に使うこと。領収書もいりません。 居酒屋だけでなく、喫茶店でもスポーツジムでもOKです。こうした取り組みを始めた途端、テレビの取材が5~6社来ましたね。経済産業大臣にも声をかけられ、グッドキャリア企業アワードや日本サービス大賞などを受賞し、プレミアムフライデー感謝状をいただいたり、春の園遊会に招かれたりと大いに注目されました。

2021年には、一番欲しかった賞である「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の中小企業庁長官賞を受賞できました。従業員とその家族、外注先・仕入れ先、顧客、地域社会、株主など「人」を幸せにすることで業績も上げている会社を1社でも増やそうと始まった顕彰制度で、当社が大事にしている価値観そのものです。

そのほかにも、若手社員用に光熱費込み3食付きで寮費3万円の社員寮を完備していたり、必要な資格取得の費用を会社がすべて負担して、数万円から100万円の報奨金を与える資格取得支援制度を設けたりと福利厚生が充実している。

こうした取り組みを通じて「社員とその家族」を第一優先にした五方良しの経営を体現しているんです。

ビジョンは企業文化や風土に浸透させなければ意味がない

私が「社員とその家族」を大事にできる理由は単純で、社員が好きでしょうがないからです。 「かわいくてしょうがない」と愛を持って接すると、やっぱり部下はついてくるんですよ。 あれこれ悩まずに好きになるのが大事だと思います。

今でも若い社員とよく話しますし、会話はタメ口です。他の会社の方から「なんで社長が新入社員とタメ口で喋るんですか?」と聞かれるんですが、新入社員が好きでしょうがないし、タメ口で話したほうが距離が縮まって新しい情報を教えてもらいやすくなるんですよ。新入社員からTikTokのやり方を教えてもらって、楽しく使っています。 そういう私の姿を見て、管理職の社員も「そうやって接すればいいのか」と学んでくれますしね。

どんなビジョンを作るかより、 会社が目指すものに末端の若年社員も共感し、行動できる状態になっているかのほうがよっぽど大事 です。 ビジョンを作るだけで会社がうまくいくわけない んですよ。ビジョンなんてどの会社も似たり寄ったりですから、作りたいなら他社の良いビジョンをパクっていいとさえ思っています。

当社のビジョンは、お客様に満足と優れたサービス・環境を提供して「期待を超える感動」をお届けすること。分かりやすいですよね。お客様と対面したり、不安に直面したりした時の支えになるように、私は毎年分かりやすいスローガンを社員に伝え、実行させています。

経営目標には「縁あって島根電工に入社した社員一人ひとりを社会人・職業人として育成すること」も入っています。こうした 企業としての姿勢を、教育や制度を通じて社風や風土に浸透させて、社員からもお客様からも信頼される企業にすることが、強い組織を作るカギ になります。

上層部にこうした考えがなく組織改革できないと悩んでいる方は、 引きずり降ろして自分が変えるんだ ってくらいの気概で臨んでほしいと思いますね。

※本記事は、2022年6月23日に開催されたUnipos株式会社主催のオンラインセミナー『「日本でいちばん大切にしたい会社」の秘密 ~急成長と社員の幸せを両立する組織変革~』の内容をもとに再構成しました。

(文:秋カヲリ 編集:櫛田優子)

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