【弁護士JP】
2023年01月27日
「信号機のない」横断歩道で、次々とクルマやバイクが止まることなく通り過ぎ、渡りたくとも渡れない…。このような経験がいまだにある歩行者も少なくないのではないだろうか。
先日も、神奈川県横浜市の信号のない横断歩道で、歩行者のために一時停止しているクルマを後方のクルマが追い抜き、あわや歩行者と接触する大惨事となりかねない「危険運転」のドライブレコーダー映像がSNSで拡散され話題となったばかり。
また12日には、三重県四日市市内で横断中の91歳の女性が、71歳の女が運転する乗用車にはねられ死亡する事故が発生するなど、「信号のない横断歩道」に関連する痛ましい事故も後を絶たない。
通常、横断歩道に横断中、または横断しようとする歩行者がいる場合、クルマの一時停止は法律的にも義務づけられている(道路交通法 第38条(横断歩道等における歩行者等の優先))。これに違反した場合の罰則は『3月以下の懲役または5万円以下の罰金』、違反点数は2点、反則金は9000円となっている。歩行者がいる「信号機のない」横断歩道で一時停止しないことは、マナーの問題ではなく、れっきとした交通違反となる。
年々「停止率」は高くなっている
JAF(日本自動車連盟)が2022年に行った調査によれば、「信号機のない横断歩道における車の一時停止率」は全国平均で39.8%。つまり、約6割のクルマが実際に一時停止しないという結果も出ている(調査数7540台)。
ただ、「違反」の認知や取り締まり、警察や企業の啓発などの取り組みもあり、前出の調査が開始された2016年の同一時停止率の全国平均7.6%と比較して、近年は飛躍的にドライバーの意識は高まっていることは確かだ。
例えば、前年(2021年)ワーストワン(10.3%)になった岡山県では、県警や交通安全協会、自動車学校などが啓発活動を活発化させたという。中でも岡山トヨペットが公開した、「忍者のような身のこなしでないと横断歩道が渡れない」というイメージで作成されたアクロバティックな啓発動画(「Road to Ninja-一億総忍者の国」〈https://www.youtube.com/watch?v=yiVyULb7AGA〉)は話題になった。これらの取り組みもあり、2022年の信号機のない横断歩道での一時停止率は49.0%と飛躍的にアップという結果も出ている。
他の都道府県の単位でも、バラつきがあるものの、年々停止率は高くなっている印象だ。ちなみに、2022年のトップは長野県(82.9%)、ついで兵庫県(64.7%)、山梨県(64.6%)となっている。ワースト3は、沖縄県(20.9%)、和歌山県(22.5%)、京都府(23.5%)である(前出JAF調査より)。
歩行者側の危険横断による事故も多い
信号機のない横断歩道での一時停止について、ドライバーへの認知が広まる中、歩行者側も十分な注意が必要なことは言うまでもない。警察庁の調査によれば、2017年から2021年の5年間で、全国でクルマと歩行者が衝突した交通死亡事故は5052件発生し、その約7割の3588件は「歩行者が横断中」の事故となっている。
その横断中の事故のうち、約7割の2406件が『横断歩道以外』を横断している際に発生している。さらにその内の約7割は、「走行中の自動車の直前直後を横断する」などの法令違反もあったという。
死亡事故にいたらなくても、接触事故などが発生した場合、歩行者の責任については、法律ではどのように判断され得るのかなどについて、前出の調査でベスト3に入った山梨県に事務所を構える、ベリーベスト法律事務所甲府オフィスの山本一志弁護士に聞いた。
信号のない横断歩道について、山梨県のドライバーの一時停止率は全国3位という結果ですが、交通ルールを守る地域性のようなものはあるのでしょうか
山本一志弁護士:調査結果によると、全国平均が39.8%のところ、山梨県は64.6%と、良い結果が出ているとのことですが、個人的には、山梨県で生活している中でドライバーが歩行者のために一時停止してくれる印象は少し薄く、意外な結果であると受け止めています。弊所の事務員2名も同様の感想であり、山梨県の交通ルールを守る地域性のようなものは分からないというのが、私の率直な感想です。
信号のない横断歩道を横断中に車との接触事故があった場合、歩行者の過失割合はほぼ0%とのことですが、例外的に歩行者の過失が認められるケースなどがあれば教えてください
山本一志弁護士:民事裁判上で過失割合が争われる場合、「別冊判例タイムズNo.38」(通称「緑の本」)の記載を参考にすることが通常ですが、同書籍87頁にも記載されているとおり、「車の直前での横断・渋滞車列の間や、駐停車車両の陰からの横断、夜間暗い場所における横断や、通常、車が高速で走行しているような幹線道路又は交通頻繁な道路の横断の場合」には、歩行者としても左右の安全確認義務違反に基づく若干の過失相殺が認められるおそれがあります。
実際には、車が減速して走行したか否か等、個別具体的な事情を総合的に考慮して、上記「若干の過失相殺」を認めるべきか否か判断されることになります。
なお、刑事裁判上では、信号のない横断歩道上の接触事故において、歩行者がドライバーの何らかの法益を侵害することは通常考えられませんから、歩行者が刑事責任を追及されることは通常無いと思われます。
「信号のない横断歩道で一時停止」の他に、ドライバーに見逃されがちな交通ルールで、事故の際にトラブルになりやすいものなどはありますか
山本一志弁護士:例えば、『道路外出入車と直進車との事故』(「緑の本」278頁等)が挙げられます。道路外から道路に進入する際には、左右の安全を十分に確認し、交通の流れに逆らって無理に進入しないことです。
また、『進路変更車と後続直進車との事故』(同書籍290頁)が挙げられます。進路を変更する際には、余裕をもって合図を行い、後続直進者の速度又は方向を急に変更させない方法でこれを行うことが重要です。
信号のない横断歩道では、もちろんドライバー側の十分な注意が必要ですが、トラブルに巻き込まれないよう、歩行者側が横断の際に最低限注意すべきことなどはありますか
山本一志弁護士:たとえ民事裁判上歩行者の過失が0であり、ドライバーに対して一定額の金銭賠償が見込める場合でも、交通事故に遭わずに日常生活を送ることが一番です。
したがって、信号のない横断歩道を横断する際には、車の走行音が聞こえないから目視を怠ること無く、目視で左右の安全を確認することをお勧めします。
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