日本政府は対GDP比で世界最悪の借金(債務)を抱えている。この借金は本当に返せるのか。金融アナリストの土屋剛俊さんは「戦後の日本は、戦費で膨らんだ借金を帳消しにするため、急激なインフレで円を紙くずに変えたことがある。そして現在の日本の借金は、当時よりも多くなっている」という――。

※本稿は、土屋剛俊『お金以前』(日経BP)の第6章〈日本の経済は今どんな状態なのか〉を再編集したものです。

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日本円が紙くずになるタイミングはあるのか

第1章で触れましたが、基本的に紙切れでしかないお金の価値を支えているのは、「その紙切れには価値があるとみんなが信用すること」です。つまり、みんなが信用し続けている限りでは、紙切れの価値は維持できることになります。

では、少子高齢化が決定的な、日本円という紙切れに対する国民の信頼はいつまで続くのでしょうか。

本章では日本が破綻し、円というお金が紙くずになってしまう可能性について考えてみます。

日本は経済大国です。GDPは世界第3位(2021年)で、治安もよく、日米安保条約でアメリカが守ってくれるはずなので、他国に侵略されて滅ぼされてしまう可能性も低いと思われます。したがって、今すぐに日本円が紙くずになる可能性は低そうです。

では今の日本で、何が起きると日本円が紙くずになってしまうのでしょうか。

「借金をいくらしても大丈夫」は本当か?

可能性がいちばん高いのは政府が借金をしすぎて、破綻してしまう場合です。

実はこの問題については世界中の経済学者やエコノミスト、政治家、投資家、アナリスト、ジャーナリストなどが長い間ずっと議論しています。

この議論で怖いのは、自分の意見と違うことを主張する人を、経済学の基本すらまるでわかっていない最悪の人間として、人格否定をするような発言が多くみられることです。

物事にはいろいろな考え方があり、自分とは違う意見も尊重したらいいと思うのですが、一向に収まりません。

主な論点は、次のふたつです。

「大丈夫、政府はいくら借金しても問題ない」
「借金しすぎるといずれ返せなくなって破綻する」

この真逆のふたつの意見が対立しています。

前者の代表はMMT(現代貨幣理論)推進派の人達で、後者の代表は財務省です。

MMTとは、とてもざっくりいうと、「政府は自国通貨、つまり日本なら円での借金ならいくらしても大丈夫、なぜなら政府はお金を刷れるから」、という考え方です(注)。

このテーマは選挙のときもいつも話題になります。

政治家はMMTの「借金はいくらしても大丈夫」という理屈が大好きです。それはそうですよね。「増税しません。必要な財源は借金でまかないます。だっていくら借金したって平気だから」と選挙で言えるからです。

(注)MMT理論について
本文中の説明はかなり乱暴なものです。もう少し説明すると「財政支出は中央銀行のファイナンスによって貨幣化される限りにおいては債務ではない」という考え方です。さらに推し進んだ意見を聞くと、神学論争というか哲学の領域にまで行ってしまっていると私は感じます。