スティーブ・ジョブズは、観衆の心をつかむスピーチで有名でした。

各社とも、製品発表ではジョブズの基調講演の手法を取り入れたほどです。カリスマ性があり、ジョークをとばしてみたり、ときには挑発的な物言いをすることでも有名でした。

ジョブズのすばらしいパフォーマンスの数々のうち、なかでも特筆すべき事例が1つあります

これは講演中ではなく、彼がApple に復帰してから間もない1997年、ある質疑応答の最中にあったことです。 聴衆のなかから、ある男性が侮辱的とも取れる質問を投げかけました。

動画は以下の画像をクリックすると閲覧できます。(YouTube)

「ジョブズさん、あなたは聡明で、多大な影響力をお持ちです。でも、ここまでお話を伺っていると、ご自分が何を言っているのかまったく分かっていないのが明らかで、残念ですよ」

そう言うと男性は、Javaおよび打ち切りを発表したソフトウェア・フレームワーク、Opendocに関する具体的な質問を続けました。さらに、Appleから追放されていた7年間、何をしていたのかとジョブズを問い詰めたのです。

ジョブズがNEXT社を買収したのは、彼がAppleに戻ってからまだ数カ月しか経っていない頃でした。これに不満を募らせていた者は、かなりの数に上っていました(この質問者もおそらくその1人)。まだCEOに就任してもいなかったジョブズが、大胆な改革を推進したのです。ただのコンサルタントという立場だったにもかかわらず。

男性の質問に対し、ジョブズは直接回答することはしませんでした。代わりに、質問に隠されていた別の質問に答えたのです

自身の聡明さや成功を擁護するでもなく、間違っていることもあるという、質問者の強い非難をむしろ受け入れたのです。

「途中で失敗することもありますが、意思決定がなされているので、悪いことではないのです。間違いは見つけ出して改めます」

完璧主義で知られているジョブズのこと。失敗を容認しようとしていたわけではありません。

上記の回答も後述する通り重要なポイントではありますが、それ以前に、この応酬に関して驚くべきことがいくつもあります。

なかでも注目すべきは、ジョブズがこのときソフトウェア開発者を前に質疑応答のステージに立っていたこと。Apple WWDC(世界開発者会議)のステージで、ティム・クックが今後、同じように回答する可能性はゼロと言っても過言ではないでしょう。

さらに、この侮辱的な発言に、ジョブズがしなやかかつ忍耐強く対処したことです。言い訳をしたり、カッとなったりする可能性もあったはず。多少イラついた様子を見せたとしても無理からぬこと、と思われたでしょう。でも、ジョブズの反応はまったく異なったものでした。

ジョブズの考える「失敗」とは?

ジョブズの発した2つの文は、成功するための教えをよく示唆しています。

成功は、失敗しないようにすることではない。失敗とはほとんどの場合、成功が何であるかを会得していくプロセスである

この過程では、失敗は避けられない。失敗しないための戦略をいつまでも練り続けることも可能だが、結果的に何もしていないに等しく、無駄に過ごしたことになる、と。

成功は、どう定義して達成するものなのかを、ジョブズは短い言葉で伝えたのでした。

「カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)をもとに、テクノロジーを構築していくことが肝要だと常に考えてきました。

テクノロジーありきで、それをどこに売り込もうかと思いめぐらすのではダメなんです。

今日お集まりの皆さんの誰よりも、私自身がたくさんこの間違いを犯してきました。それによってたくさんの代償も払ってきました

この最後の部分に注目してください。多くの間違いを犯したとジョブズ自身が肯定していますが、会場で質問を投げかけた男性の言葉からもわかる通り、それがジョブズの信用に陰りを落とすどころか、むしろ信用を増していたのです。

代償を払ったということは、敗北ではありません。戦いを勝ち抜いた証です。

もちろん、目指すべきは(成長につながるような)些細な失敗をどんどん繰り返していくことであり、(廃業に追い込まれるような)深刻な失敗を犯すことではありません。成長につながる失敗を通して、深刻な失敗を避けるすべを会得できるでしょう。

さらに、失敗は自分が何を築くべきなのかをも教えてくれます。

間違いを見つけてどんどん軌道修正していくことで、あなたの製品や事業が揺るぎないものに成長していくことでしょう。これが真に望んでいた姿ではないでしょうか。

Source: YouTube

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