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【まいどなニュース】「切り株の年輪、幅の広い方が南側」は間違い!? 農学博士の発信に「信じ込んで50年」「ボーイスカウトで習った」/2023.06.13

【まいどなニュース】

2023.06.13

宮前 晶子宮前 晶子

「切り株の年輪、幅の広い方が南側」という話、聞いたり、読んだりしたことありませんか? コレ、まったくの間違った情報です。

しかし、長い間、語り継がれてきたのも事実。ウッドエンジニアリングを研究する農学博士で京都大学生存圏研究所特任教授・秋田県立大学名誉教授の林知行さんは、「間違い知識の拡大生産をなんとしても避けたい」との思いから「年輪と方角の幅はまったく関係がない」ことをたびたびSNSで発信しています。

その都度、寄せられる声が「子供の頃の知識を信じ込んで約50年です」「学校で先生から聞いて、子ども・孫にも話した」「ボーイスカウトで習ったのに」「有名なアニメでも言ってたけど」など。なかなか正しい情報は浸透しないと嘆きながらも、発信を続ける林さんに取材しました。

広まった情報の絶滅は難しい

年輪と方角については、林さん自身も間違い情報を信じていたクチ。「少年時代にサバイバルテクニックだと教わりました。『子供の科学』に書いてあったようにも記憶しています」。これが誤りだと知ったのは50年前、大学の授業でした。年輪幅に広い狭いが生じるのは樹の幹の傾き(傾斜)や根が張っている土地の傾き(傾斜)、樹体の重心の偏りなどさまざまな理由からで、年輪と方角にはなんの関係もないという事実を聞いた時は、ショックを受けたそうです。

林さんのように正しい情報を手に入れる人もいますが、大半の人はそれを信じたまま大人に。子どもに「切り株の断面を見てごらん、年輪の幅の広い方が南なんだよ」と教えるのもありえることです。「誰が、いつから、この間違った情報を言い始めたのかはわかりません。子ども向けの本や図鑑などに書かれ、あるいは学校で教えられ、広まってしまったのだと思います」。

実際、図書館で図鑑や本を見ると、古い版のなかには「年輪・方角説」を説くものも。増刷のタイミングで改訂しているようですが、子供向けの本に珍説が多いことに苦言を呈します。出版社が誤った情報を掲載していたことをアナウンスし、正しい情報を発信したこともありますが、「一旦間違った情報が広まるとなかなか修正が効きません。まして、学校で教えられたことがあるとなると、絶滅は不可能でしょうね」。

木の伐採は方法次第で環境破壊じゃない

林さんが、SNSや講演活動などで熱心に木や木材に関する正しい知識の伝達に取り組むようになったのは阪神淡路大震災がきっかけ。大工さんや、建築士さんら木材に携わる人が、木に関する誤った知識に侵されたまま住宅づくりを行っていることに危機感を抱いたからだそうです。

今、気にかかっているのは学生たちの樹木への誤った知識。「学生の多くは、中学高校で“木を伐って使うのは環境破壊だ”と教えられています。そのことのほうが、はるかに大きな問題。授業で、“そうじゃないんだよ。上手に木を植え、上手に木を伐り、そして上手に木を使うことが、地球環境の保全につながる”と理論立てて教えると、たいていビックリします」。

林さんが秋田県立大学の1年生相手にオリエンテーションの授業をおこなっていたときは、毎年授業の最後に学生が書く感想やレポートには、判で押したように「先生の話を聞くまで、木を伐るのは環境破壊だと思っていました」「木材を使うのは良くないことだと思っていました」という文言が並んでいたそうです。

「環境問題に対して意識の高い農学系の学生がこの状態ですから、あとは推して知るべしといったところでしょうね。年輪・方角について正しい知識を得ることはもちろん、森林伐採と環境破壊について正しい認識を持って欲しい。SDGsや低炭素化社会といったこともあり、こちらもはるかに大きなトピックスとして世に訴えるべきだと思います」。

◇  ◇

著書『目からウロコの木のはなし』(技報堂出版・1980円)では、「年輪・方角説」のほかに、「正倉院校倉の壁通風説」「奈良大仏殿世界最大木造説」「板目板反り水分説」などなど、学校などで学んだ間違い知識ネタをわかりやすく解説。「えっ!そうだったの!」という正しい知識に触れることは、木や森林などの自然、環境について改めて考えるきっかけになるかもしれません。


 

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