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【サンケイ】DX成功のカギはトップの覚悟と現場のマインド 元佐賀県CIO・森本登志男 

【サンケイ】DX成功のカギはトップの覚悟と現場のマインド 元佐賀県CIO・森本登志男

2021.4.8 08:00

全国の自治体に先駆けて、佐賀県はコロナ禍でテレワークが世に広まるより6年も早く県庁全職員を対象にテレワークを開始しており、2011年には県内すべての救急車にiPadを配備して救急搬送にかかる時間を短縮するなど、10年以上も前からデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んできた。その変革を推進してきたデジタルトランスフォーマーが、2011年から佐賀県の最高情報統括監(CIO)に就任していた森本登志男だ。なぜ、佐賀県は10年前からDXに成功していたのか。その秘訣と経緯を森本氏に聞いた。(ITジャーナリスト 田中亘)

--自治体がDXを成功させるためには何が重要でしょうか

森本 DXのためのテクノロジーは、お金さえ出せばどこの自治体でも導入できます。DXに関連する製品や技術だけではなく、指導してくれる人も対価を払えば調達できます。しかし、それだけでは成功しません。テクノロジーの導入よりも重要な成功のカギは、将来への見識を備えたトップの覚悟と現場のマインドがDXに向かうことです。テクノロジーで『何を解決したいのか』という課題を、トップが明確に示し、導入する現場がそれを共有し、一体となって推進することです。これまで関わってきた多くの自治体で、解決すべき課題を明確な形として共有できず、本来のゴールとなる大きなビジョンやコンセプトを持たないまま事業を進めている状況を見てきました。その結果、予算を確保して委託業者が決まっても、現場が変化を嫌うために本来のゴールを見失い細かな仕様ばかりにとらわれ、なかなか課題解決につながる良い成果がでない事業が多いのです。

--現場が変化を嫌うというDX失敗の傾向を覆す手立てや、成功事例はありますか

森本 私が佐賀県のCIOを勤めていた2013年に、YouTubeの再生回数が237万を超える『恋するフォーチュンクッキー 佐賀県庁 Ver. / AKB48[公式] 』を企画し、佐賀県の好感度を向上させた成功事例があります。

森本 この動画を制作するきっかけが、「業務のバリエーションの広い県庁職員が、それぞれの職場で曲に合わせて踊るような動画を作れないか」との当時の佐賀県知事からの相談でした。前職のマイクロソフトでマーケティングを担当していた経験と、アイドルに詳しいことから、白羽の矢が当たったのだと思います。私自身も、最初に『恋するフォーチュンクッキー 』のミュージックビデオを観たときに、この曲に合わせて踊る自主制作の動画が数多く投稿されることを運営サイドは計算していると感じました。そこで、知事にはそうした分析を示し、県庁の職員に協力してもらい、佐賀県庁のPRになる動画を制作しました。撮りたい映像イメージを絵コンテにして渡した部門もごく少数ありましたが、それぞれの部門が創意工夫して楽しい動画が出来上がりました。外向けには、AKB48[公式] の認定を最初に取得したことと、お堅いイメージの地方自治体の動画という話題性もあって、再生回数が激増しました。結果的に、240万再生を記録し、東京エリアでのメディア露出による広告換算額は、推計で約1.5 億円を超えました。この佐賀県での成功を見て、そのあとに他の自治体や会社・団体も自分たちで動画を撮って投稿するというムーブメントが起こりました。

佐賀県は地味なイメージを持たれ、他県からの認知度も低い状態でした。この動画には、佐賀県に対するとても好意的なコメントが並び、自分たちが出演し作成した動画の配信が瞬く間に広がっていく現象を多くの職員が体験しました。この頃、佐賀県庁では、Facebookのページを持つ部署が50を超えているなど、SNSでの情報発信が活発に行われていました。SNSなどネットを使ったデジタルによる情報の拡散の力を現場が理解したのです。トップである県知事が覚悟を決めて率先し、県庁の職員たちが新しいことへの変化をいとわず実践するマインドが、その後も佐賀県庁のDXを推進する力になったと思います。

2019年 G20観光大臣会合では官民セッションでモデレーターを務めた森本氏

森本氏は、2011年から2016年までの5年間、佐賀県のCIOとして県庁経営に参画し、基幹情報システムの開発・運用コストの大幅削減や4000人の全職員を対象としたテレワークの導入など県庁のDXに貢献した。その後も地方の活性化に貢献する活動を続けながら、コロナ禍では、企業の働き方改革やテレワーク導入などのアドバイザーとして活躍している。

--トップにDXの覚悟がなく現場の士気も上がらないような企業はどうなりますか

森本 コロナ前と後で、企業の二極分化が進むと思います。佐賀県CIOの任期を終えた後は、テレワーク導入などのコンサルティングで、数多くの企業を見てきましたが、新しいことへのチャレンジに覚悟を決められないトップが増えてきていると感じています。DXは、業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを導入して、超過勤務を3割減らしましょう、という表面上の数値目標だけでは駄目なのです。働き方にどのような課題があって、なぜ解決しなければならないのか、テクノロジーを活用してどう事業を変革するのか、というトップのビジョンや覚悟が必要です。さらに、DXを導入する目的と期待する効果が現場に明確に共有される仕組みが重要です。ここが二極分化の分かれ目になります。二極分化の上に行く側であることを現場に示せなければ、有能な社員が抜けていくだけではなく、若い人たちがその会社に就職しなくなります。こうした負の連鎖が続いていけば、大企業でも競争に負けてしまい、自然に淘汰されてしまうでしょう。

--DXによる淘汰の波にのみ込まれないためには、企業や組織のトップはどう変わるべきでしょうか

森本 企業の幹部を担う世代のうち、自ら変われない人たちは、最前線から別のところにスライドしてもらう方が良いと思います。大企業では、人事評価から変えていくべきでしょう。コロナ前のシステムやプロセスで人材をふるいにかけてしまうと、幹部になる年代まで麒麟であり続ける人材が残らなくなるでしょう。佐賀県のDX推進では、とんがりすぎて他の自治体ではなかなか評価されづらいような職員たちが、排除されることなく仕事を任されていました。コンサバティブにならずに、攻めるところは攻めるという勇気や姿勢が求められます。

--このまま淘汰が進むと、日本企業は衰退の一途となってしまうのでしょうか

森本 そうはならないと思います。アフターコロナでは、大企業よりも中小、中堅、ベンチャーなど、小回りのきく企業が活躍する場が広がると予測しています。私はその可能性をソウルオリンピックで金メダルを獲った鈴木大地のバサロ泳法に例えています。ドルフィンキックで潜ったまま進むバサロ泳法が、他の泳者を圧倒したように、このコロナ禍で、いかに水面下で努力をしているかどうかが、コロナ後の成功につながると考えています。

例えば、観光業では、大きな観光資源を持たなくとも、地道に地元の特産品や観光資源のデジタルコンテンツを整え、SNSやオンライン会議などのデジタルツールでなるべく多くの人たちとつながり、人を呼べないこの時期に知恵と創意工夫で努力を続けている地域がいくつもあります。こうした地域には、コロナが明けたら新たにできたファンが押し寄せると思います。つまり、コロナの間にテクノロジーを活用し、DXによる工夫を実践したかどうかが、水中から体が現れたときに、他を引きはなしているバサロ泳法のような勝機につながるのです。

--日本再興のためにも自治体や企業のDXに期待したいですね

森本 私の仮説が正しければ、トップの覚悟と現場のマインドがDXに向かえば、企業だけではなく地方自治体でも、将来に期待の持てる仕事ができると思います。私自身も、コロナが明けたら、全国の地方自治体を巡って、どこでどんなことが起こっているのかを見て回る計画です。自分から足を伸ばして、現地で聞いた成功事例を世に知らしめたいと考えています。

森本 登志男(もりもと・としお)
岡山県出身。 1986年京都大学工学部合成化学科卒業、宇部興産入社。 1990年ジャストシステム入社、 1995年マイクロソフト(現・日本マイクロソフト)入社、1999~2002年Microsoft Corporation(米国)勤務、マイクロソフト市場開発室長、公共営業本部自治体営業部シニアマネージャー等を歴任。2011年、佐賀県の最高情報統括監(CIO)に就任。2016年4月から、岡山県特命参与(情報発信担当)、佐賀県情報エグゼクティブアドバイザーなど、全国の地方の活性化に幅広く活動中。

【サンケイ】DX成功のカギはトップの覚悟と現場のマインド 元佐賀県CIO・森本登志男

2021.4.8


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