【幻冬舎】
2023.1.28
原油や天然ガスなどの原材料価格の止まらぬ高騰…。製造コストを圧迫する現状では、値上げに踏み切らなくては下請け製造業に未来はない、と700社を超える中小製造業の経営改善を支援してきた大場正樹氏は言います。本連載では、「値上げできない」は多くの中小製造業の思い込みであると語る大場氏が、「インフレ時代に生き残るための値上げ」について、交渉に勝つ価格設定や、実際の交渉テクニックなど具体的な戦略をわかりやすく解説します。
グラフで見るとより顕著な日本の転落…
現状ではまだ恒常的なインフレになるかどうかも不透明な状況ですし、自分の周囲にはデフレマインドが残っていて、値上げなんて到底言いだせないという気持ちも分かります。今は過渡期なのでデフレマインドに染まっている人もまだまだ多いでしょう。
しかし俯瞰(ふかん)していけば、インフレの兆候をそこかしこに発見することができるでしょう。
そもそも原材料価格が上がっているということは、従来の価格ではモノが買えなくなっていることを意味します。それが1種類の材料だけにとどまっているのであれば、戦争や災害などの偶然による一時的なアクシデントかもしれませんが、2種類、3種類の材料が値上げされているのであれば、全体的な流れになります。
すでに日本は先進国で最も物価の安い国となっています。例えばよく各国の経済力を測るための指数として使われるマクドナルドのビッグマックの価格でいえば、日本のビッグマック価格は3.38ドルで57ヵ国中33位。1位スイスの6.98ドルの半額以下であり、中国や韓国よりも安く、グアテマラ、ペルーと同水準です。
このビッグマック指数は半年に1度の調査なので、2022年1月の1ドル=115.23円時点の調査ですが、8月現在の1ドル=137円で調べ直すと日本は40位以下になってしまいます。ビッグマック指数ではなくスターバックス指数(スターバックスのトール・ラテ価格の各国比較)でも、ほぼ同じ結果が出ます。
平均賃金はアメリカのなんと半分以下…
各国の平均賃金を見ても、日本はOECD加盟35ヵ国中の22位で、韓国やニュージーランドよりも給料が低いとの結果が出ています。これは、物価が安いから給料が低くても平気という話ではありません。物価の違いを考慮した購買力平価ベースの平均賃金で、アメリカの半分強、韓国の9割強しかないのです。
このグローバル経済の時代に、日本だけが低価格、低賃金を維持し続けていくことはできません。従業員や下請け企業が「頑張ります」と言っていられるのは、今はまだメーカーが原材料費を吸収して低価格を維持しているおかげで、まだ生活費がそれほど上昇していないからですが、いずれ吸収しきれなくなってなし崩しにインフレが進行すれば、低賃金への不満が一気に爆発することになるでしょう。
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