【現代ビジネス】
2023.03.30
今どき、運動会や飲み会がある会社は少ないが、京セラでは大事な文化とされてきた。これはもちろん創業者、稲盛和夫氏の哲学に基づくものだ。稲盛氏は、そうした行事で社員とどのような交流を図ってきたのか。
20年以上稲盛氏の秘書を務めた片岡登紀子氏が見てきた稲盛氏の意外な一面を、稲盛氏の情熱の思想と関係者の証言が綴られた新刊『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』から紹介する。
何ヵ月も前から運動会の応援合戦の練習を
実は、入社したとき(1984年)、これは3ヵ月で辞めることになるんやないか、と思いました。軍隊式の朝礼とか、当番制のトイレ掃除とかがあり、ものの使い方ひとつとっても、なかなか細かくて厳しいわけです。
人はものすごくあったかくて、いい人ばかりだな、と思ったんですが、私にはこの社風はしんどいな、と感じていました。ところが3ヵ月を乗り越えると次の1年が乗り越えられ、1年乗り越えると3年、10年と乗り越えられていって。
担当している仕事が次々に目の前にやってきて、それをなんとかクリアしようとしていたら、あっという間に月日が経っていました。
入社後、抵抗があったものの一つに、運動会がありました。休むなんてありえない感じでした。しかも、チーム対抗でやるんですが、もう真剣そのものなんです。応援合戦まであって。
それこそ高校の文化祭とか体育祭なみに、事前に練習をするんです。応援合戦も、何ヵ月も前から毎晩、練習をする。仕事が終わってからです。疲れて早く帰りたいのに、練習も出ないといけない。日曜日にリレーのバトン渡しの練習まであったりしました。最初は、とんでもないな、と思いましたね。
でも、準備をしていたときは抵抗があったんですが、実際に当日を迎えると、ものすごく盛り上がるんです。本当に高校時代みたいに。それこそちゃんと練習をしているから、それなりにレベルも高い。だから、みんなとても楽しんでいて。
稲盛氏のお得意は「うどんの早食い競争」
年1回でしたけど、どうして運動会が開かれたのか、その意味はよくわかります。それは、心を一つにするためだったのだと思います。練習はきついなぁ、休みの日なのになぁ、と最初は思っていても、当日を迎えると大きな一体感が生まれるんです。
私が入社する前は、稲盛名誉会長も競技には実際に出られていたそうです。うどんの早食い競争がお得意だという話も、諸先輩方からよく聞かされました。実際、お昼をご一緒したりしても、麺類を食べるのは、ものすごく早かった。昔から鍛えておられたのかもしれないです(笑)。
私が運動会の名誉会長を覚えているのは、審査席にいらっしゃる姿です。でも、お昼になるとそこから出てきて、あちこちと回られる。みんながご飯を食べているところで一緒に食べたり、一緒に写真を撮ったり。応援にも参加したりして、すごく楽しまれている様子でした。
もう一つ、運動会は本社だったり、全国の工場だったり事業所だったりで、それぞれ開かれていたんですが、例えば本社でも、総務にいたら、他の部署の人とはなかなか話をする機会はないんですね。営業の人との接点はそれほどないわけです。
しかし、運動会もそうですし、いろいろな行事があれば、いつも一緒に仕事をしている人たち以外の部署の人たちとも仲よくなれる機会にもなります。そうすると、やっぱり仕事はやりやすくなるんです。これも魅力でしたね。