【朝日新聞】
2023年4月16日
食べると「芽が出る」縁起物といえばクワイ。おせち料理で不動の地位を占めているが、お正月にしか口にしない人も多いのでは。生産量日本一の広島県福山市では、さまざまな加工を施し、年間通して愛される食材に向けた変化の芽が出てきた。
口に入れるとホクホク、そして独特の苦みが――。直径2センチほどの小ぶりのクワイの素揚げは、市内の「おばんざい木むら」の冬の人気料理だ。
サトイモのような食感で、軽く振られた塩が甘みと苦みを引き立てる。芽をつまんではパクリ。手が止まらない。一口サイズで芽も食べられる。店主の木村広子さん(76)は「県外の方には珍しいのか、お代わりされることも。どんなお酒にも合うようです」。
もともと、芽が折れたり形が悪かったりしたクワイを農家が自家消費するための料理だった。今では、市が選ぶ酒のさかな「福つまみ」の一つに数えられ、学校給食にも出されている。
福山くわい出荷組合は、規格外のクワイを素揚げにしたスナック菓子「福山のくわいっこ」を10年ほど前から売り出した。こちらの食感はサクサク。25グラム入り袋の三つセットを800円ほどで年中、楽しめる。
薄切りにして揚げたチップス、粉末を練り込んだうどん、焼酎……。組合などはさまざまな商品を開発してきたが、「くわいぽたーじゅスープ」(5食入り567円)の人気は特に根強い。ほんのり甘く、子どもでも飲みやすい即席スープだ。
市内にとどまらず、大阪天満宮(大阪市北区)の参道で日本の伝統薬などを売る「薬食さふらん堂」にも並ぶ。店主は「縁起が良いと参拝に来た受験生に好評。繰り返し買っていく人もいる」と話した。
最新作といえば昨年11月に発売した「福山くわいカレー」(200グラム・480円)。半分に切ったクワイがたっぷり70グラムも入っていて、ほろ苦さや甘みをしっかり楽しめた。通信販売で一時は売り切れるほどだったという。
地元の農協関係者は「加工品なら1年通して販売でき、廃棄を防ぎながら、生産者の収入を上げられる。広くクワイのおいしさを知ってほしい」とホクホク顔だった。
次なる新作は、ペースト状にしたクワイを使った洋菓子モンブラン。年内の発売に向け、東京の菓子店にも依頼しながら、試作を繰り返している。(菅野みゆき)
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福山市のクワイ生産は全国の約6割を占める。沼に自生していたものを1900年ごろ福山城の堀に移したことが始まりとされる。水田で栽培されるが、宅地化などの影響で作付面積は激減。ここ10年ほどで生産農家や出荷量もほぼ半減し、現在は30戸ほどが約111トンを出荷している。
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