【神戸新聞】
2023/1/2
兵庫を含む瀬戸内海沿岸6県を自転車で巡る「セトイチ」実現に向け、淡路島と徳島県を結ぶ大鳴門橋(全長1629メートル)への自転車道整備を検討していた兵庫県が、2023年度にも事業着手する方針を固めたことが分かった。徳島県との合同事業として計58億円を投じ、28年度の開通を目指す。国内屈指となる総延長約500キロのサイクリングルートとなり、自転車を通じた大交流圏の形成が期待される。
■人気の「アワイチ」、四国側から行き来できず
淡路島を一周する「アワイチ」(約150キロ)は、自然豊かで変化に富んだコースとしてサイクリストの人気を集め、新型コロナウイルス禍の前には年間2万人が楽しんでいた。課題はアクセスで、本州側からは明石港(兵庫県明石市)と岩屋港(同県淡路市)を結ぶ高速船に自転車を載せて移動できるが、四国側との行き来はできない。
一方、広島県と愛媛県を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」には既存のサイクリングロードがある。四国と淡路島を結ぶ鳴門海峡を渡ることができれば、瀬戸内海沿岸が1本のルートでつながるため、地元や愛好家の間で近年、待望論が高まっていた。
■新幹線を通すための空間
着目されたのが、大鳴門橋の桁下空間だった。1985年に開通した同橋の下部には、将来的に四国新幹線を通すための空間が確保されていたが、事業化のめどは立っていない。兵庫、徳島両県は18、19年度に強風時の影響などを調査し、安全性を確認。構造設計などを経て、23年度から自転車道整備に取りかかる方向で合意した。
具体的には、桁下にアスファルト舗装を施し、幅員4メートルのうち2・5メートルを自転車道、1・5メートルを歩行者用とする。アプローチ部分も含め1799メートルの整備区間のうち、兵庫県は淡路側から931メートルを担当し、事業費は30億円を見込む。残り868メートルは徳島県が施工し、28億円を負担する。
■世界遺産登録に弾み
年間利用者数はサイクリスト9万人、徒歩やレンタサイクルの一般観光客35万人と想定する。維持管理、運営の費用は利用料収入で賄う方針で、サイクリストは1台千円、徒歩・レンタサイクルは500円を軸に検討する。安全確保のため夜間は閉鎖し、ミニバイクなどは通行できない。
自転車道が完成すれば鳴門海峡が誇る「渦潮」を間近に望む拠点にもなり、兵庫、徳島両県が目指す世界遺産登録に弾みがつく。兵庫県は「広域的な観光圏をつくり、海外からの誘客や多様な交流促進にもつなげたい」とする。
「アワイチ」人気に目を付ける神戸市も昨年10月、再整備を進める須磨海岸(神戸市須磨区)を起点に、サイクリストと自転車を船で淡路島に運ぶ実証実験を実施。3日間(1日1往復)で約260人が利用した。市は「ニーズは高い」とみており、民間での実施も含めて事業化の検討を続けている。
国内の他のサイクリングルートとしては、千葉県から和歌山県に至る太平洋岸自転車道(1487キロ)や、滋賀県の琵琶湖岸一周(ビワイチ、193キロ)などがある。