【中国新聞】
2023/07/08
JR福山駅(広島県福山市三之丸町)周辺で未成年による飲酒や喫煙が目立っている。集合場所は駅南側の駐車場そばの路上。少年たちは「P横」と呼ぶ。学校でのいじめの被害や親との関係に悩み、居場所を求めて行き着くケースもあるという。学校や年齢も異なる子どもたちが、つながりを求め、夜な夜な集う現場を訪ねた。
5月中旬の平日午後8時。ビジネスホテルや駐車場が並ぶ駅前の一角に、男女のにぎやかな声が響いていた。足元には酒の空き瓶やたばこの吸い殻が散乱し、大人たちはけげんな表情で通り過ぎる。入れ代わり立ち代わり、多い時には十数人が集まる。
市内の高校に通う10代少年は「家にいても暇だし、ここなら誰かいる」。昨年10月からほぼ毎晩、P横に通っているという。
入学後、クラスで根拠のないうわさを広められて孤立した。母子家庭で母親とは折り合いが悪く、アルバイトも長続きしない。時間を持て余していた時、知人と初めて訪れたのがP横だった。「話したくないことは詮索されないし、みんな学校も年齢も違うからこそ打ち明けやすいこともある。P横は気が楽になる場所」と話す。
大学生の女性(20)は交流サイト(SNS)でP横を知り、月数回の頻度で訪れている。新型コロナウイルス禍でさまざまな制限を強いられてきた日常のストレスを、路上で晴らしているという。「SNSのやりとりだけじゃなく、顔を合わせて騒げる友達ができたのがうれしい。大人の冷たい目も、承認欲求が満たされてちょうどいい」
東京・歌舞伎町の「トー横」や大阪・ミナミの「グリ下」など、若者が路上に集う動きは今、全国にある。各地では子どもが被害に遭う事件が起きるなど、路上は常に「居心地のいい場所」では済まないのが現実だ。
これに対し、市教委はスクールサポーターによる見回りでP横にいる生徒への声掛けを強める。家庭や学校での状況に応じ、生徒が自分に合った学校に通う選択肢の一つとして市内のフリースクールなどの案内もできるという。県教委は県警との情報共有を進め、学校の内外で悩みを相談できる体制の整備を各高校に指導していく。
居場所づくりの動きは同世代からも出ている。市内の高校生たちでつくる団体「STUily(スタイリィ)」は昨年から、中高生が集える場づくりに取り組む。市内の経営者たちでつくる一般社団法人ふくやま社中が支援する。現在は市内の複合施設や店舗の協力を受け、塾の待ち時間や自習に使えるスペース7カ所を確保している。
若者の生活支援に取り組むNPO法人どりぃむスイッチ(同市霞町)は6月から、駅前にあるビルの一室で週2日、漫画コーナーやゲームを備える「そんトキカフェ」を開く。
同法人の粟木原薫さん(37)は「『居場所がない』と悩む若者は家庭や大人への信頼感がないケースが多く、友人との関係性は大切。ただ、若者だけが集う場はトラブルを引き寄せるリスクがある」と話す。「問題を一人で抱え込まず、頼れる大人がいると知ってほしい。安心できる居場所として、ふらっと立ち寄ってもらいたい」と呼びかけている。
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