【ベストカー】
2023年7月3日
トラックやバスなど大型車の後輪を見ると、大抵の場合タイヤが二重に付いている。そのタイヤの二重化はいつから始まったのだろうか。
文・写真(特記以外):中山修一
■タイヤを二重化するメリット
二重化したタイヤのことを、日本語では「複輪」や「ダブルタイヤ」、英語では「デュアルタイヤ(dual tires)」、ドイツ語だと「ドッペルべライフン(Doppelbereifung)」と呼ぶ。
普通乗用車より、トラックのような荷物を積むための車に盛り込まれる機能であるのは周知の通りだ。前輪が左右タイヤ1個ずつ(シングルタイヤ)、後輪は左右2個ずつ(ダブルタイヤ)の構成が基本と言える。
後輪がシングルタイヤでは何か不都合でも生じるのか……車に荷物を積んだ状態では、車両の後ろ寄りが重くなる。自ずと後輪に大きな負担がかかることになり、シングルではタイヤが積載物の重みに負けて破裂する限界まで、すぐに届いてしまう。
そこでタイヤを二重にすると、一つのタイヤにかかる荷重が分散され、シングルタイヤの時と車体サイズが一緒でも、より多くの荷物を積めるようになる。さらに走行時の安定性が良くなるメリットまで付いてくる。
ダブルタイヤは後輪に装備すると高い効果が得られる。前輪は後輪ほど荷重がかからないのと、左右に曲がりにくくなるため、一部の農業用トラクターを除き、前輪のタイヤを二重化した車両は稀だ。
バスもまた車体の後ろ寄りに大勢の人を乗せるということで、トラックと同様に後輪がダブルタイヤになっている。重量のあるエンジンが後部に搭載されているのも、ダブルタイヤ化する理由の一つと言える。
今日、ワゴン車タイプよりもサイズが大きい車両なら、マイクロバス、小型バス、中型バス、大型バスのほとんどがダブルタイヤを採用している。
■実用化されたのはいつ?
今日では理由を考える必要もないほど、当たり前な存在のダブルタイヤであるが、誰が最初に考え、いつトラック・バスに浸透していったのだろうか。
自動車の前身である馬車が一般的な乗り物であった時代にダブルタイヤは存在しただろうか。空気で膨らませるゴムタイヤが実用化したのは19世紀終わり頃なので、それ以前はタイヤというよりダブルホイールか……。
16〜19世紀頃に作られたとされる馬車の写真等を確認していくと、4輪の場合は前が小さく後ろに大き目の車輪が取り付けられている。いずれもシングル構成で、車輪を二重にした馬車は見つからなかった。
昔の道は未舗装が普通だった。馬車を少ない力で引っ張ることができ、悪路に足を取られず強引に通り抜けるには、車輪を大きくする必要があった。その上で、曲がりやすくするために前輪の径が少し小さくなっている。
馬車の車輪構成は必要から生まれた形であるが、そもそも重量を分散させる概念がないようで、今日のダブルタイヤとは目的が全く異なる。やはり車輪の二重化は自動車が誕生した以降に花開いたものと見られる。
続いて1800年代末期〜1900年代初頭の、トラックやバスに用いる車両を見ていくと、ごく初期のものは馬車の延長線上であった関係で、馬車とよく似た車輪構成になっている。