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【ニュースイッチ】クリーンプラネット(東京都千代田区)かつて科学的に否定された「常温核融合」という技術.

ディープテックは、将来的に世界を大きく変える可能性を秘めた科学技術のことを指します。
「可能性に満ちた深い(ディープ)ところに眠っている技術」と、「社会に深く根ざした問題(ディープイシュー)を解決できる技術」という2つの意味があります。

今回は、クリーンプラネット(東京都千代田区)は核融合プラズマとは違う方法で熱源を作り出す。カギを握るのは、かつて科学的に否定された「常温核融合」という技術、という記事です。

資源の乏しい日本に、科学の力でクリーンで安全なエネルギーが開発・実用化されることを期待したい。


【ニュースイッチ】【ディープテックを追え】

2022年02月28日

核融合スタートアップの開発競争が熱を帯びている。太陽のエネルギー運動を地上で再現する「人工太陽」の実現を目指し、しのぎを削る。各社が目指すのは、1億度以上Cのプラズマを作り維持する「自己点火条件」だ。

そんな中、一風変わった技術を実装しようとするスタートアップがいる。クリーンプラネット(東京都千代田区)は核融合プラズマとは違う方法で熱源を作り出す。カギを握るのは、かつて科学的に否定された「常温核融合」という技術だ。

「低温」で過剰熱を起こす

「理論上は都市ガスの1万倍以上のエネルギー密度が得られる」-。クリーンプラネットの林雅美グローバル戦略室長はこう力を込める。同社が「量子水素エネルギー」と呼ぶ熱源の特徴は反応温度にある。核融合炉では、1億度Cという高温でプラズマ状態を磁場で閉じ込める巨大な施設が必要だ。対して、量子水素エネルギーは1000度C以下という低温で、反応を起こすために投入した熱エネルギー以上の「過剰熱」を得られる。

量子水素エネルギーの仕組み(同社HPより)

原子核と原子核は一定の距離に近づくと引き合い、核融合を起こす。ただ同じ電荷を持つ原子核がこの距離に近づくには、「クーロン斥力」という反発する力に打ち勝たないといけない。そのため核融合炉には1億度Cの高温が必要になる。量子水素エネルギーではナノ(ナノは10億分の1)スケールの金属粒子に水素を吸着させ、熱刺激を与えることで過剰熱を発生させる。

一時は「えせ科学」とも言われた技術

量子水素エネルギーの源流は常温核融合という技術だ。1989年3月に米ユタ大学で2人の研究者が報告した。当時はパラジウムの電極を重水素の溶液中で電解したところ、化学反応では説明できない過剰熱が発生したという報告だった。ただその後、各国で行われた追試の結果、否定的な見解が相次いだ。再現性が乏しく「えせ科学」とさえ見られていた。

それでも可能性を信じる研究者たちが研究を続け、着実に成果を残してきた。電極方式のほか、パラジウム・ナノ粒子への重水素吸蔵に伴う発熱などの現象が報告され、徐々に再現性が高まってきた。日本でも新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2015年~17年に行った実証で再現性が確認された。

産業用熱で応用

開発したプロトタイプ

クリーンプラネットはこれまでの研究成果を踏まえ、より産業化を見据える。安価な原材料のニッケルと銅、軽水素を使った反応系で発熱を再現する。14ナノメートルのニッケルと2ナノメートルの銅をシート上にし、多段積層した素子にする。真空状態にした素子に軽水素を燃料として投入し、外側から熱を加える。そうすると加えた熱以上の過剰熱が放出される仕組みだ。同社の実験では900度Cの熱投入に対して、920度Cの熱を240日連続稼働で供給することに成功した。また熱が1200度Cを超えるとニッケルが溶け、内部の素子がうまく機能しなくなるため熱暴走は起こさないという。ナノ金属をシート上にすることで安全性にも配慮した。

同社の研究所
基礎実験で使用した実験機

研究開発する素子を長さ1メートル、500ワットのモジュールとして22年の完成予定。今後は23年頃からボイラーなど産業用熱の分野で応用展開を目指す。株主でもある三浦工業と協力して、モジュールをボイラーに搭載しこれまでよりも省エネ性能を高める。またモジュールを複数個搭載し高温を出したり、空気を含ませることで温度を下げて供給するなど柔軟性を持たせる。成績係数(COP)を高めることで発電での応用も見えてくるが、「まずは産業熱の分野でパートナー企業とともに脱炭素に貢献したい」(林グローバル戦略室長)と話す。

この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
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COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

多くの産業向け電気は熱に変換されて利用されています。二酸化炭素の排出を抑制しながら、熱を生み出す分野は地味ながら有望な市場です。同社はモジュールの開発、製造に注力し最終製品はパートナー企業と協業するとのこと。今後、脱炭素の流れに乗ってどれだけ支持されるかがポイントです。


 

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