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【野村総研】UBSのクレディ・スイス買収劇が残した4つの課題/2023/03/22

【野村総研】

2023/03/22

国民負担を伴う政府による銀行救済(ベイルアウト)の性格を帯びたものに

スイス金融最大手のUBSは、スイス政府と金融当局が仲介する形で、現地時間3月19日に、長年のライバル関係にあったクレディ・スイスを買収することを決めた(コラム「市場の厳しい評価に晒されるクレディ・スイス」、2023年3月16日、「UBSがクレディ・スイス買収に向けた交渉を開始」、2023年3月19日、「UBSがクレディ・スイスを買収:6中銀はドル供給を強化」、2023年3月20日)。

世界の金融危機に発展しかねないクレディ・スイスの無秩序な破綻が回避されたことは、好ましいことだ。しかし、政府、当局が深く関与したこの買収劇は、将来に大きな課題を残すこととなった。

第1は、政府、当局にとっては、準備不足でやや拙速な買収劇となったことだ。短期間のうちに慎重姿勢のUBSに買収を受け入れさせるため、政府は、UBSが買収したクレディ・スイスの資産から損失が生じる場合にそれを補填する90億フランの保証を与えた。また、スイス中央銀行は政府保証がない資金1,000億フランを、UBSに貸し出す。

政府や当局によるこうした大盤振る舞いは、買収に慎重であったUBSを説得する必要があったためだろう。UBS側が十分な資産査定を行う時間的余裕がないままに、今回の買収を決めなければならず、そのため買収にかなり慎重であったとみられる。

クレディ・スイスの深刻な経営不安は昨年秋から急速に高まっていたことから、政府、当局は買収を含めたクレディ・スイスの経営問題への対応の準備をもっと前倒しで進めておくべきではなかったか。

第2は、国民負担を伴う政府による銀行救済の様相となったことだ。政府が損失発生に備えて90億フランの保証を与えたことは、スイス国民に負担が生じる可能性があることを意味する。それは、公的資金を用いた政府による銀行救済、いわゆるベイルアウトに近いものである。

2008年のリーマンショック時には、米国では国費、いわゆる国民の税金を用いて大手銀行を救済したことが、後に国民から強い批判を受けることとなった。この点から、国際的にも銀行システムの頑健性をより高めるとともに、経営危機に陥った銀行が、ベイルアウトを避ける形で処理されることを目指してきたのである。

しかし今回の買収が、公的資金の投入の可能性を含むベイルアウトの性格を帯びたものとなったことで、リーマンショック以降の国際的な銀行規制の有効性が再び問われることとなっているだろう。

株主には大きな損失

第3に、クレディ・スイスの株主に大きな損失を生む買収となったことだ。買収は30億スイスフラン規模の株式交換方式によるが、先週末17日終値でクレディ・スイスの時価総額は約74億スイスフランであったことから、半分以下の値段で買収されることになる。20日の取引開始時には、クレディ・スイスの株価は6割下落した。

クレディ・スイスは破綻を回避したにもかかわらず、クレディ・スイスの株価は一気に半分以下に下がり、株主は大きな損失を被った。これは、株主が経営不振の責任を取らされたことを意味するが、買収に慎重なUBSが買収を決める条件としてクレディ・スイスが大幅に譲歩せざるを得なかった。仮に買収が破談となっていれば、クレディ・スイスの株価が無価値になる形での破綻処理がなされていた可能性があり、それよりは株主の損失は小さくなったとも言える。

株主に大きな損失を強いる決着となったことは、他の銀行が経営不振に陥り、買収される場合にも、同様な処理がなされるとの懸念が金融市場に高まることを意味する。これは、銀行株への投資のリスクを高め、銀行株下落や金融市場全体の不安定要因となる。

債権者(AT1債保有者)には納得のいかない処理

そして第4は、クレディ・スイスが発行した160億フランのAT1債を無価値とする処理がなされたことで、株式を保有する株主よりも債券を保有する債権者の方がより大きな損失を追うという、常識では考えられない事態が生じたことだ。これは、今回の買収劇を特徴づけるものであり、最大の問題ではないか。

AT1債とは、株式と債券の中間の性格を持つ劣後債の一種であり、発行する銀行の自己資本比率が一定以下まで低下する場合には、株式に転換されて銀行の資本増強に充てられ、また政府・当局が関与する形で銀行の破綻処理がなされる場合には、損失を吸収して国民の負担を小さくする狙いなどから、元本が削減される。これはベイルインと呼ばれる(コラム「継続する米国の銀行不安:ベイルインとベイルアウト」、2023年3月20日)。

このように、AT1債は元本を失うリスクがある一方、利回りが高めであることから、低金利環境下で投資家に積極的に購入されてきた。投資家はリスクを覚悟しているため、AT1債が無価値となったこと自体は、大きな問題とは言えないだろう。ただし、AT1債は株式に近いとはいえ債券であり、弁済順位は株式よりも高い。ところが今回のケースでは、株式の価値は大幅に減ったものの無価値とはならなかった一方で、AT1債は無価値となるという、いわば常識に反する逆転現象が起きてしまったのである。

中途半端な買収劇のつけ

そのことは、今回の買収劇が中途半端なものであったことに根差しているだろう。既に見たように、今回の買収劇は、表面的にはUBSによるクレディ・スイスの買収という民間のディールであったものの、そこに政府が関与し、90億フランの保証を与えるというベイルアウトの性格も加わった。それがゆえに、国民の負担をできる限り減らす観点から、AT1債が無価値となってしまった。純粋な民間銀行同士の買収劇であれば、AT1債は無価値とはならなかった。

他方、買収ではなく政府が関与する形でクレディ・スイスが破綻処理される場合にも、AT1債が無価値とされた可能性はあるが、その場合には株式も無価値となっていた可能性が高い。債券、株式ともに無価値となれば、両者の弁済順位に逆転は生じないのである。

今回の買収劇が、民間のディールと政府の関与が組み合わされた、いわば中途半端な枠組みであったことが、債券と株式の弁済順位の逆転という異例の事態を生んだのである。

AT1債に金融市場混乱の火種

このことが、世界の金融市場に与える影響は大きいだろう。クレディ・スイスが発行したAT1債を保有する投資家には、大きな損失が発生する。2,750億ドル(約36兆円)規模の欧州AT1債市場にとって過去最大の損失となったのである。

さらに、他の銀行が発行するAT1債についても、仮にその銀行の経営が不振に陥り他行に買収される場合には、同様にAT1債の元本が部分的あるいは全部削減されるとの懸念が高まり、AT1債全体の価格下落をもたらしている。それが投資家に新たな損失を生み出しているのである。

AT1債のリスクが一気に高まったことは、投資家に打撃であるだけでなく、銀行にも打撃となる。当面は市場の混乱からAT1債の新規発行は難しくなり、資金調達が制約される。規制上の自己資本に組み入れることができるAT1債の新規発行が難しくなれば、自己資本増強の手段が制約を受けてしまうことにもなる。これらは、銀行経営をより不安定にしてしまう可能性があるだろう。今回の買収劇は、金融市場に大きな混乱の火種を残してしまったと言える。

 

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